社会的インパクト債第一号事業の最終評価報告書が公開される

ここ数年で急速に拡大し、英米のみならず、オーストラリア、カナダ、韓国など世界各地で導入が進められている社会的インパクト債(SIB)。この第一号事業は、英国のピーターバラ刑務所の再犯予防事業でした。この事業については、既に成果報告やパフォーマンス報告が公開されていますが、昨年末に法務省が委託した最後の評価報告が公表されました。これに関連し、英国の市民社会メディアが辛口の論考を掲載しています。

記事によると、最終報告書は、結論として「SIB自身が、イノベーションを引き起こしたわけではない。ピーターバラで試みられた手法は、他の地域に先行事例が既に存在していた。」とした上で、「SIBのメリットは、資金を受けた団体が予算をより柔軟に使えた結果、効率的で効果的な事業運営が可能になったことや、SIBという枠組みを通じて、行政、中間支援組織、NPOやコミュニティ間の情報共有と意思疎通が促進されたことなどである。」と指摘するに留めているとのこと。法務省が直接委託した評価報告書ですが、結論は手放しの礼賛ではなく、非常に抑制的なものだったようです。

これを受け、記事は、他の資金提供プログラムに比べて経費がかかり、規模も大きいことを考えると、SIBだけを重視する必要があるのだろうか、と疑問を投げかけています。実際、ピーターバラ刑務所のプロジェクトも、SIB契約期間の満了を待たずに、他のプログラムに移管されました。また、SIB でなく、成果報酬型(Pay by Result)の資金提供プログラムでも、十分に成果志向型の事業設計は可能です。

英国政府は、昨年、社会的インパクト債をより拡大するために、8000万ポンドの予算を計上すると発表しました。これに対し、英国市民社会団体のNCVOは懸念を表明し、「SIBに8000万ポンドを投じる前に、他の資金提供プログラムで同様の成果を上げることが出来ないかより精査すべきである」とコメントしています。また、チャリティ・ファイナンス・グループは、今回の報告書がSIBの弱点を認めていない点で、「粉飾のように見える」と手厳しいコメントをしています。

SIBは、民間資金をソーシャル・セクターに呼び込み、また政府の資金リスクを最小限に抑えるという点で、画期的なアイディアでした。しかし、その成果が徐々に明らかになるにつれ、市民社会団体からの反発も強まってきています。その背景には、SIBが民間投資家の資金を利用することで、さらに非営利セクターの市場化と補助金の削減を進めようとしていることに対する懸念があるのかもしれません。英国における議論の進展も注意深く見守っていく必要があると思われます。

http://www.civilsociety.co.uk/…/first_ever_sib_didnt_foster…

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