チャリティから カタリストへ:水資源問題への2つのアプローチを巡って

New York Timesの論説「きれいな水の本当の未来」が、チャリティを考える上でとても有益な材料を提供してくれているので紹介しておきます。

国際社会における最優先課題の一つは、水資源の保護・管理です。地球温暖化と環境汚染により、開発途上国では、飲料水や、農業灌漑・家畜飼育用の水、あるいは生活用の水資源の確保がますます難しくなってきています。

こういう状況の中、この情報ボックスでも何度か紹介したCharity: WaterというNGOが水資源問題を打開する重要な存在として脚光を浴びてきました。彼らは、セレブを使った効果的なキャンペーン、参加型ファンド・レイジング、ITを駆使したプロジェクト・サイトの可視化とリアルタイム・モニタリングなどにより、大規模な資金を集め、世界各地で井戸掘りプロジェクトを進めてきました。この成果は高く評価されています。

しかし、この手法は、本当に水資源問題の解決に結びついているのだろうか、と論説は問題を提起します。第一に、水資源問題は、水源確保や汚染源の除去、気候変動問題などが複雑に絡み合った問題であり、単に井戸を掘れば済むという問題ではありません。第二に、仮に井戸を掘ったとしても、近くに汚染源があれば、井戸水は使用に耐えません。また、地下水にも限りがありいつまでもくみ上げ続けることは出来ません。さらに、井戸のポンプを維持管理する能力を村人が持っていなければ、井戸はすぐに使えなくなります。現実には、井戸を掘っても2年間でその井戸が使えなくなるケースが多いということです。Charity: Waterの手法は、その「分かりやすさ」のために多くの支持を集めましたが、その裏にはこのような問題点が潜んでいると論説は主張します。

ではどうすればよいのか。この情報ボックスでも取り上げてきましたが、「厄介な問題」に取り組むには、多様な利害関係者を巻き込んだ集合的インパクトを志向する方法が適切です。これを実現するためには、Charity:Waterのように、NPOが直接実践に取り組むのではなく、むしろ、カタリストとして、多様な利害関係者を巻き込みつつ、持続可能な形で問題に取り組むべきだというのが論説のポイントです。具体的な例として、Water.orgという団体は、コミュニティが水問題を自分たちの問題として捉え、水資源の管理、衛生管理、水資源確保などをトータルに扱っていけるようサポートします。その上で、水資源管理や衛生に取り組む社会的企業やコミュニティ・ビジネスをWaterCreditというマイクロ・ファイナンス機関を通じて支援すると言うのが彼らのモデルです。これ以外にも、持続可能な水質浄化システムの導入をサポートするWaterHealthInternationalや低コストで衛生管理センターの設立を支援するSanergyなどのインパクト投資の事例が取り上げられています。

分かりやすいチャリティは、インパクトがある反面、そこで思考を停止させてしまう恐れがある。確かにこの論説の議論は的を得ていると思いました。

http://opinionator.blogs.nytimes.com/2013/08/21/the-real-future-of-clean-water/?_r=0

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