非営利団体の経営戦略

非営利団体の経営戦略について、このフォーラムで取り上げている主なトピックについて説明します。

1.戦略計画策定

通常は、3〜5年間の中期計画を策定します。一般的なプロセスは、「ミッションの再定義」→「環境スキャン」→「SWOT分析」→「戦略目標設定」→「実施計画策定」→「事業モニタリング」→「達成度評価」→「フィードバック」というサイクルです。策定に当たり、理事会、経営者、スタッフのみならず、支援団体や受益者、コミュニティなどのマルチ・ステイクホルダーの参加が奨励されます。なお、近年はより迅速に環境の変化に対応するため、組織のあらゆるレベルからのフィードバックを踏まえてより柔軟に計画を運用していこうという「リアルタイム戦略計画策定」が提唱されています。

2.資金調達

非営利団体は戦略計画策定プロセスを通じてサービス提供による収入を拡大し、経営基盤を安定させることが必要です。同時に、寄附金を集めるファンド・レイジング手法も発展させる必要があります。伝統的には、ダイレクト・メール送付やイベント開催を通じたファンド・レイジングが一般的でしたが、近年は電子メール、フェイス・ブックなどのソーシャル・メディア、及びウェブサイトを組み合わせた手法が広がりつつあります。また、以下のような多様な手法やプラットフォームが発展しています。

  • 参加型ファンド・レイジング
    趣旨に賛同する個人が、様々なキャンペーンを通じてオンライン上で寄附金を集め、これを特定の非営利団体や主義・主張に寄附するという手法です。キャンペーンには、ジョギング、ダイエット、サイクリング・ツアーなど多様なチャレンジが試みられています。
  • コーズ・マーケティング
    特定の企業とパートナー・シップを締結し、その企業のマーケティングと組み合わせることで資金調達を行う手法です。商品のマーケティングにNPOの主義・主張を組み合わせてキャンペーンを行い、収益の一部を寄附してもらったり、企業の店頭で募金キャンペーンを行ったりと、様々なアプローチが試みられています。
  • 寄附仲介プラットフォーム
    米国では、個人からの寄附を集めてNPOに資金を提供する寄附仲介プラットフォームが発達しています。伝統的には、「コミュニティ財団」「市民ファンド」が特定の目的に沿って基金を設立し、そこに集まった資金をグラントという形でNPOに再分配するのが一般的でした。他方、90年代に入り、個人が個人口座を開設し、その口座を通じて自分の指定するNPOに寄附することが出来る「ドナー・アドバイズド・ファンド」という仕組みが急速に発展しています。ドナー・アドバイズド・ファンドは、従来、コミュニティ財団が運営していましたが、90年代以降は営利金融機関やNPO、大学、病院なども広く取り入れています。また、高齢者が資産の一部を生前に寄附し、一定額を年金などの形で受け取って、死後に残額がNPOに寄附されるという「プランド・ギビング」という手法も開発されています。さらに、カルヴァート財団のように、市民から「コミュニティ債券」を集めてNPOや社会的企業に資金を提供するという仲介団体も登場しています。
  • クラウド・ファンディング・プラットフォーム
    オンライン上にNPOの団体・活動情報を掲載し、このプラットフォームを通じて、個人が自分の気に入ったNPOに少額の寄付や投資を行うことが出来るようにしたプラットフォームです。掲載するNPOの適格審査(Due Diligence)や、寄附後の活動モニタリングの可否がプラットフォーム成功の重要な要素となります。米国では、インターネット上で寄付を募る「オンライン寄附」だけでなく、モバイルのテキスト通信機能を使って一定額の少額寄附を行うことが出来る「モバイル寄附」も発展しており、災害時の緊急支援などに威力を発揮しています。

3.事業評価

NPOの事業の成果を定量的に測定し、これをステイクホルダーに広く共有することは、事業の改善やNPOの信頼性向上につながる重要な要素です。一般的には、NPOが事業を通じて生み出したアウトプットによりどのような変化が受益者にもたらされたかという「アウトカム評価」が使われますが、さらに、こうしたアウトカムの集積を通じて、コミュニティにどのような変化がもたらされたかを測定する「インパクト評価」手法も広がりつつあります。近年は、こうしたインパクト評価がどのような価値を生み出しているかを貨幣価値に換算して提示する「社会的投資収益率(SROI:Social Return of Investment)」手法も導入されています。

4.集合的インパクト

NPOが社会を変革していくためには、単独で事業を行うのではなく、公的セクター、営利セクター、コミュニティなどの異なるセクターを巻き込んでいくことが重要です。こうしたセクター間の協働を通じて社会変革を実現していこうという手法は、近年「集合的インパクト」として注目を集めています。「集合的インパクト」が成功するためには、機能的で安定した調整団体の存在や、異なるセクターの参加者がそれぞれの達成度を評価できる達成評価指標の共有などの条件が満たされる必要があります。このような集合的インパクトが広く実現されるために、助成財団が「触媒型フィランソロピー」を導入していくことが必要であるという議論もなされています。

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