フォーラムで扱う主なテーマについてご説明します。
1.フィランソロピー
フィランソロピーとは「人類への愛」を指すギリシャ語です。広義には、善意に基づき、無償で財、サービス、モノなどを個人や団体に提供する行為を指します。これには、個人の寄附やボランティア活動、助成財団のグラント・メイキング活動、企業の寄附やボランティア、財・サービスの現物提供などが含まれます。狭義には、助成財団や信託基金のグラント・メイキング活動や、富裕なフィランソロピストの寄付活動に限定する場合もあります。なお、近年、社会的目的と経済的目的の双方の実現を目指す社会的企業や社会的投資が広がりつつある中、これらを「フィランソロピーの新たなフロンティア」として、フィランソロピーに含めようという議論も始まっています。
2.非営利団体の経営戦略
非営利団体も活動基盤を安定させ、よりインパクトのある事業を行うためには経営戦略が必要です。米国を中心に、非営利団体の戦略計画策定、財務・会計、資金調達、評価など様々な分野で革新的な経営戦略モデルが提案され、実際に試みられています。特に、近年は、セクターを越えた協働を目指す「集合的インパクト」や、刻々と変化する環境に適応するための「リアル・タイム戦略計画策定」、非営利団体の活動成果だけでなくその社会的インパクトを定量的に評価するための「社会的インパクト評価指標」などが注目されています。
3.社会的企業
社会的企業とは、広く社会的目的と経済的目的の双方を実現するための活動を行う団体を指します。社会的企業には、非営利団体、協働組合、会社などの様々な法的形態が含まれます。近年、社会的目的の実現を基本とする非営利団や協同組合などの第3セクターに対し、社会的目的と経済的目的の双方の実現を目指す団体を「第4セクター」と名付け、こうした団体に新たな法人格を与えようという動きが広がりつつあります。米国の「L3C(Low Profit & Low Liability Corporations)」や「B-Corp(Benefit Corporations)」、英国の「コミュニティ利益会社」、イタリアや韓国の「社会的企業」などの新たな法人格が導入されています。
4.社会的投資
投資の世界においても、経済的目的だけではなく、社会的目的を同時に達成しようという社会的投資の動きが始まっています。投資先の選定に当たり、投資がもたらす社会的・環境的インパクトに配慮して投資の社会的責任を果たそうという「社会的責任投資」は、欧米では機関投資家も含めて広く受け入れられている社会的投資の形態です。また、より積極的に社会的インパクトをもたらす企業に投資しようという「社会的インパクト投資」も始まっています。また、低所得や心身の障害のために金融サービスを受けることが出来ない人達に金融サービスを提供し、彼らの自律を支援するための「金融包摂」や、開発途上国における低所得者層向けの「マイクロ・ファイナンス」などの動きも広まっています。近年は、社会的インパクト投資の一環として、政府が民間から資金調達を行って非営利団体に提供する「社会的インパクト債券」や、社会的企業の資金調達を促進する「社会的証券取引所」なども試みられています。
5.イノベーション、テクノロジー
これ以外にも、ソーシャル・セクターにおいては、最新のテクノロジーを導入した様々なイノベーションが試みられています。例えば、ケニヤのM-Pesaを契機に広がりつつある「モバイル通貨」は、開発途上国における「金融包摂」や「マイクロ・ファイナンス」の重要なツールとして注目を集めています。また、ビッグ・データを活用した「マッピング」ツールは、NPO間の協働促進、災害・紛争・疫病時の情報収集、腐敗・汚職監視など、様々な分野で利用されつつあります。これに伴い、米国では、政府が保有する各種統計データを、ソーシャル・セクターが利用しやすいフォーマットで公開し、こうしたビッグ・データの活用を推進しようという議論が行われています。
©Tatsuaki Kobayashi(2015)
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