社会的投資

社会的投資とは、社会的目的と経済的目的の双方を実現を目指す投資を指します。無償で提供されるグラントや寄附と異なり、社会的投資は、元本の返却や利子・配当の提供を求めます。社会的投資のメリットは、(1)幅広い層からの資金調達が可能であること、(2)事業のスケール・アップやキャパシティ・ビルディングなどに必要な大規模な資金の調達が可能であること、(3)長期にわたる安定的な資金の調達が可能であること、などです。

 

1.社会的投資の形態

  • 社会的責任投資(Socially Responsible Investment)
    投資にあたりその投資がもたらす社会的・環境的効果に配慮して投資の社会的責任を果たそうという考え方です。社会的投資という発想は、20世紀初頭に遡る長い歴史を持ちます。具体的には、投資に当たり、社会的・環境的な弊害をもたらす企業への投資を控えようとする「ネガティブ・スクリーニング」や、より積極的に、社会・環境面で利益をもたらす企業に投資しようという「ポジティブ・スクリーニング」などがあります。後者は、「ESG(Environment, Society and Corporate Governance)投資」とも呼ばれます。
  • 社会的インパクト投資(Social Impact Investing)
    社会的責任投資をさらに発展させ、社会・環境面でインパクトをもたらす社会的企業に投資しようというのが社会的インパクト投資です。インパクトを重視するため、投資の際には社会的投資収益率(SROI)などの指標が用いられます。社会的インパクト投資は、現在、コミュニティ、BOP(Bottom of the Pyramid)、環境、社会福祉などの領域を主に対象としています。また、投資形態としては、ローン、エクイティ、メザニン型資本、ハイブリッド資本などがあります。
  • 社会的インパクト債券(Social Impact Bond)
    社会的インパクト債券は、社会的インパクト投資の一形態として開発された投資形態です。一般的には、政府が社会的インパクト債券を発行して資金を調達し、この資金をNPOや社会的企業に提供します。一定期間後に、投資成果の評価が行われ、一定の目標が達成されていれば、政府が投資家に投資リターンを払うというシステムです。NPOや社会的企業の活動により、ソーシャル・セクターに対する政府の支出が抑制されれば、その一部を投資収益として投資家に返却しても、政府にとって財政的なメリットがあり、またNPOや社会的企業にとっても組織基盤の拡充を図ることが出来ると言うメリットがあります。英国で開始され、米国にも2012年に「成功報酬(Pay for Success)債券」として導入されました。当初は、再犯防止や非行対策などの予防的措置に関する政策に限定されていましたが、現在は、雇用や教育などの多様な領域に拡大しています。また、開発協力のための「開発インパクト債券(Development Impact Bonds)」の導入も検討されています。

2.社会的投資の担い手

社会的責任投資は、機関投資家、一般投資家、金融機関など、幅広い担い手が参加しています。これに対し、社会的インパクト投資の担い手は、現状では、社会的インパクト投資団体が中心となります。これ以外に、財団がプログラム関連投資ミッション関連投資の形で参加したり、カルヴァート財団のようにコミュニティ債券を発行して社会的投資を行ったりする場合もあります。また、コミュニティ開発金融機関も重要なプレイヤーです。さらに、金融機関や企業が社会的投資部門を設立して投資を行う場合もあります。英国では、政府主導により、銀行の休眠口座資金を活用してビッグ・ソサエティ・キャピタルという独立した社会的インパクト投資機関が設立されています。

3.社会的投資のエコ・システム

社会的責任投資の歴史は長く、社会的責任投資フォーラムのようなネットワークも整備されており、また、国連責任投資原則のような国際的なルールも確立されています。これに対して、社会的インパクト投資はまだ歴史も浅く、発展のためにはエコ・システムの整備が必要です。具体的には、以下のような取り組みが必要とされています。

  • 法整備
    社会的インパクト投資を発展させるためには、社会的インパクト投資団体の認証メカニズムを確立し、一定の要件を満たせば税制優遇などの措置を得られる仕組み作りが必要です。例えば、欧州は、近年、社会的企業向け基金法(EuSEF)を制定し、ソーシャル・セクターに対して投資するファンドに対する共通認証制度を導入しています。また、社会的インパクト投資の主な対象となる社会的企業の法人格を整備することも重要です。
  • 資金提供
    社会的インパクト投資を促進するためには、政府主導で基金を設立し、民間資金の呼び水とすることも重要です。欧州共同体の社会的インパクト促進機構(SIA)、英国のビッグ・ソサエティ・キャピタル、米国のコミュニティ開発金融基金(CDFI基金)、カナダのコミュニティ経済開発投資基金(CEDIFs)などの例が参考になります。また、米国政府は、プログラム関連投資の要件を緩和することで、財団の資産が社会的インパクト投資に向かうよう誘導しています。
  • インフラストラクチャー整備
    社会的インパクト投資が一般化するためには、投資団体のレーティング・システムや投資効果の評価システムが標準化される必要があります。現在、ロックフェラー財団などの支援によりGIIRS(Global Impact Investing Rating System)IRIS(Impact Reporting and Investment Standard)SROI(Social Return of Investment)などの指標の整備が進められています。また、社会的インパクト投資を促進するメカニズムとして、「社会的証券取引(Social Stock Exchange)」も重要です。既に、ブラジル、南アフリカ、欧州などで導入されており、モーリシャスでも導入されました。また、英国は、オンライン上で社会的インパクト投資適格団体を認証するシステムを近年立ち上げています。

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