英国では「社会的価値法」が制定され、公的セクターが調達契約を行う際には、「社会的価値」に配慮することが義務づけられました。これは、社会的企業の需要面の強化を目的とした政策ですが、では、具体的に「社会的価値」とは何でしょうか。おそらく、その解釈は多様でなかなか標準化は難しいと思われます。
この問題を考える上で参考になるのが、英国のBuilding Social Valueというネットワークです。これは、公的セクターの調達契約受注の際「社会的価値」に配慮しようという建設企業のネットワークで、「社会的価値チェックリスト」を公開して標準化を図ると共に、参加企業からのデータ収集を通じて「社会的価値報告」を作成しています。
実際、このように「社会的価値チェックリスト」という形で可視化されると、建築の社会的価値が非常に分かりやすくなります。建築関係の社会的価値としては、たとえば以下のものが挙げられます。
■地元の雇用
⇒特に失業中の若者やNEET層を対象にした雇用、職業訓練など
■地元の経済効果
⇒特に地元の社会的企業をターゲットにした資材調達やサービス購入など
■環境
⇒エネルギー効率の高い建築や、環境に配慮した資材調達、コミュニティの緑地化を推進する開発計画など
■その他
⇒コミュニティ改善のための社会貢献活動や教育活動など
公共事業というと、どうしても「箱もの」「乱開発」のイメージがつきまといますが、このように明確に「社会的価値」をリスト化して公開することで、コミュニティと自然に優しい事業への転換が可能になります。逆に言えば、コミュニティや自然に悪影響を及ぼす事業の淘汰も期待できます。地元の雇用や調達を伴わない事業、環境に配慮しない事業などはどんなに経済的価値が高くても「社会的価値」が低いからです。
おそらく、こうした「社会的価値」の可視化は、今後、様々な領域に広がっていくと思われます。自治体毎に、コミュニティのニーズに応じた「社会的価値」を競う時代が来るかもしれません。それは、「地元経済の活性化」や「持続可能な発展」だけにとどまらず、「景観を守る」「伝統文化を尊重する」「クリエイティブな人材を育成する」というものになるかもしれません。
従来のような利益一辺倒の大企業誘致政策がいかに持続性のないものだったかは、日本でも明らかになりました。結局、どんなに企業誘致に税金を投入しても、グローバル企業は安い労働力を求めて海外に移転してしまうからです。であれば、貴重な税金を、よりコミュニティが重視する「社会的価値の実現」に役立つように使った方が良いですよね。公共事業への依存度が高い日本でも、この英国の取り組みは参考になると思います。