先進国の社会課題の一つにホームレス問題があります。精神障害や薬物依存など特別な問題を抱えた人だけではなく、中流階級が失業や病気などの理由でホームレス化するケースも多く、米国では深刻な社会問題となっています。
このホームレスの問題に、集合的インパクトの手法を使って取り組んでいる団体があります。「ホームレス根絶全米連合」という団体です。連合は、「ホームレス根絶のための戦略計画」を策定・公開し、この問題に取り組むコミュニティの情報共有プラットフォームを提供することで、集合的インパクトの達成を目指しています。
彼らが提唱する戦略計画は、以下の要素からなっています。
■成果を目指す計画策定
⇒地元の状況を調査し、データに基づく成果志向の計画を策定。計画達成のために、支援団体だけでなく行政を巻き込む。
■入り口を閉ざす
⇒ホームレス化する人達は、その前にDV保護、医療、生活保護、刑務所など何らかのケア施設の世話になります。この時点で、最もホームレス化する可能性のある人達に予防措置を取ることがまず重要です。予防措置のコストは、ホームレス化した人達を支援するよりも圧倒的に低いという事実を忘れてはなりません。
■出口を開く
⇒ほとんどのホームレスは一時的なものです。彼らは就業支援などにより比較的早くホームレス状態を脱出できます。問題は、病気や精神障害などの理由により慢性的なホームレス状態にある層です。この層に対しては、恒常的な介護付住居施設を提供することが有効です。このコストは、実は彼らが慢性的にホームレス状態にある結果、引き起こすコストよりも低いのです。
■支援インフラを整備する
⇒ホームレスの問題は結局、社会のセイフティ・ネットの問題に行き着きます。低所得者向けに、住居、食品、シェルター、医療サービスを提供できれば、ホームレスは社会問題化しません。ホームレスの問題は、結局、最貧層の支援をいかに確保するかに帰着します。
ご覧の通り、彼らの計画は、既に起きてしまったホームレス問題が引き起こす社会的コストとこれを解決するために必要なコストに比べて、問題を予防するコストやターゲットを絞った有効な支援を行うコストの方が圧倒的に低いことを提示し、社会全体でのコスト・ベネフィットから最も合理的なアプローチを提案するという方針を一貫して打ち出しています。
実際、計画は、ホームレス1人あたりの社会的コストを数値化し、ホームレスが存在すると言うことが、いかに社会にとって負担になっているかを明確化しています。そして、ホームレスを解消することが、このような社会的コストを減らし、逆に彼らが働き始めることで税収が増え、消費も増えることがコミュニティにもたらす便益も提示することで、議論に説得力を持たせています。
さらに連合は、各地の支援団体とネットワークを結成し、進捗状況のデータを共有化しています。また、ネットワークを通じて、ホームレス問題に対する施策の強化を議会に働きかけています。さらに、ホームレス支援団体のトレーニングや評価手法の開発などにも取り組んでいます。まさに、集合的インパクトの中核団体としての機能を果たしていると言えます。
ホームレスの問題を「自己責任」の名の下で放置するのではなく、社会の問題として捉え、社会的価値の増加という観点から体系的に解決に取り組んでいくというアプローチ。おそらく、社会的インパクト債や社会的インパクト投資が追求しているのも、このような発想によるものだと思います。問題をコストではなく、社会的価値向上のための投資として取り組むこと。ここから、新しい福祉国家像が現れてくるのではないでしょうか。