サプライ・チェーン・マネジメントとビジネスの両立:バングラデシュ・ビル崩壊事故の問題提起

日本でも報道されましたが、バングラデシュでビル崩壊事故がありました。死者は数百人にのぼります。このビルは、ほぼすべてが衣料品工場として使用されており、操業中だったために被害者が拡大しました。事故の理由は、工場フロアを増やすため、十分な補強工事を行わずに上層階を建て増したためだと言われています。

今回の事故で、改めて、世界の主要衣料メーカーの、バングラデシュにおける危険で劣悪な労働環境と低賃金労働が浮き彫りになりました。ニューヨークタイムズの一連の報道によると、月曜日には、ドイツでNPO主催による会議が開催され、サプライ・チェーン・マネジメントの観点から、衣料メーカーが、開発途上国における工場の安全確保と労働環境改善に向けて取り組むよう決議されたようです。他方、昨日、ディズニーが、バングラデシュからの撤退を表明。幾つかの衣料メーカーもこれに追随する動きを見せ始めました。バングラデシュ政府と現地工場のオーナーは、引き留めにやっきになっています。

今回の事故は、サプライ・チェーン・マネジメントに関わる古くからの問題を改めて提起しました。CSRの発展につれて、環境への配慮やガバナンス、コンプライアンスのみならず、サプライ・チェーン・マネジメントも重要になってきました。グローバル企業は、そのためのガイドラインを設けてベンダーに遵守を求めています。しかし、では誰がその費用を負担するのか、という点が問題です。

グローバル企業は、 コスト削減のため、常に低賃金労働を求めてグローバルに展開していきますから、必然的にそのコストは、現地ベンダーに、そして最終的には工場労働者に転嫁されます。この問題を解決するために、NGOがスエット・ショップに関するグローバルキャンペーンを展開し、サプライ・チェーン・マネジメントの強化を求めても、結局、工場労働者に負担が転嫁されるという悪循環を断ち切ることは出来ません。仮に政府が規制を強化すれば、グローバル企業はより安い賃金と緩やかな規制を求めて撤退してしまうでしょう。現地の労働者は、低賃金か失業かという究極の選択を迫られることになります。

この問題にはどのようなソリューションがあるのでしょうか。例えば、SRIインデックスやESGインデックスの、サプライ・チェーン・マネジメントに関わる部分を強化するということが考えられます。CSRの一環として、フェアー・トレードを打ち出した商品を開発し、コストの一部を消費者と分け合うと言うアイディアもあるでしょう。スエット・ショップ問題を改善するために開発協力資金を活用するというオプションもあり得ます。

今回の事故は、深刻な悲劇でした。この事故を契機に、国際社会が改めてグローバル・ビジネスの最底辺の人達が置かれている状況をいかにして改善するか、政府、ビジネス、NPOのセクターを越えた議論が活発化することが望まれます。

http://www.nytimes.com/2013/05/03/business/factory-owners-in-bangladesh-fear-firms-will-exit.html?pagewanted=all&_r=0

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