SROIを巡る「神話」に反論する

社会的投資収益率(SROI: Social Return of Investments)の評価手法が普及するに伴い、これに対する批判も拡大しています。しかし、その批判の中には、SROIの概念に対する誤解に基づくものが多いのが現実です。社会的価値を評価するために望ましい手法は何かという観点からは、より建設的な議論が求められます。

Social Value UKが発表した報告書「SROI:神話と課題」は、このようなSROIを巡る誤解に基づく「神話」を取り上げ、一つ一つについてSROIとしての立場から反論していて参考になります。報告書によると、SROIを巡る「神話」には以下が挙げられます。

1)社会的価値の貨幣化のみを目的としている
2)一定の前提に依拠した推算に過ぎない
3)費用便益分析の一類型に過ぎない
4)貨幣換算は有益だが困難なので無視してよい
5)一評価ツールでしかない
6)比較のための手法でしかない
7)実施に金がかかる
8)成功例と失敗例がある
9)必要以上のことはやらない

これに対し、報告書は、SROIは、単に貨幣換算を目的としているものではなく包摂的な価値の実現を目指した実践であること、評価にあたってはエビデンスの妥当性の確保を重視していること、費用便益分析と異なり社会的会計の要素を取り入れていること、「評価ツール」ではなく「評価枠組み」であること、一度基本的な考え方を学べば誰でも実施できるしそのためのツールも開発されていること、などを説明しています。

確かに、報告書が認めているように、SROIは発展途上にあり、ポジティブな貨幣換算を過大に見積もって評価依頼者におもねるケースも散見されます。こうした事例が増えていけば、SROIという評価手法に対する信頼性が損なわれる恐れは十分にあります。しかし、一部の失敗例を取り上げてSROIというユニークな取り組みを全否定することは乱暴な議論でしょう。今回の報告書を契機に、社会的価値を適正に評価する手法や枠組みはどうあるべきかについて、より建設的な議論が始まることが期待されます。

なお、報告書は以下のウェブサイトの一番下の注2 “SROI: Myths and Challenges”をクリックするとダウンロードできます。

http://socialvalueuk.org/…/494-social-value-uk-s-response-t…

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