先日、「スモールマート革命(SMR: Small Mart Revolution)」出版の記事を掲載したところ、多くの方から積極的な反応を頂きました。ありがとうございます。良い機会ですので、「SMR特集」として、関連トピックを幾つかご紹介しつつ、地域コミュニティを基礎とした持続可能な経済発展の方法について考えてみたいと思います。
今回は、SMRの鍵となる概念の一つ、「漏損分析」について。SMRの議論は、ウォルマートのような大企業を誘致しても、結局、地域で富が蓄積されないという問題から出発します。ではなぜこのような問題が起きるのでしょうか。
例えば、州政府が、文化施設の建設を計画したとします。一般的には、州政府が競争入札を行い、一定の条件を満たした中で、最も価格の安い案件を落札するというのが常識です。例えば、地元企業A社が150万ドルで入札し、他州に拠点を持つ大手企業B社が100万ドルで入札したとしましょう。両社共に条件を満たしていれば、当然、B社が落札することになります。しかし、これは州全体の経済にとって望ましいと言えるでしょうか。
例えば、仮に地元企業が落札したとすると、地元企業は、地元の機材を使い、地元の素材を最大限に活用し、地元の従業員を雇用します。電気系統や内装なども出来る限り地元の企業を使うでしょう。そうすると、150万ドルがすべて州内の企業に支出されることになります。それは、従業員への給料や関連製品・サービスの購入という形で乗数効果を生み出し、最終的には州内に例えば200万ドルの経済効果を生み出す可能性があります。
これに対し、他州の大手企業B社は、最低限の地元労働者の雇用以外は、原材料、機材などすべて大手企業のグローバル・ネットワークを通じて州外から調達したとします。そうすると、100万ドルを投下しても、州内に落ちるお金は地元労働者の雇用費30万ドルとその乗数効果10万ドルの計40万ドルしかない、ということにもなりかねません。これは、州政府の公的資金を使い、価格を安くしたとしても、その資金が州内の経済活性化につながらないということを意味します。
SMRは、この点に着目し、「漏損分析」を提唱します。「漏損分析」とは、州政府なりその下の市や郡などの地方自治体を単位として、一定の財が投下されたときに、それがどれだけ域内で使われ、乗数効果をもたらすか、逆にどれだけ域外に流出してしまうか、を分析する手法です。仮に、この漏損分析を入札時に加味して評価すれば、上の文化施設建設事業は確実に地元企業A社が落札することになるでしょう。
この「漏損分析」はこれ以外にも様々な形で利用可能です。金融、エネルギー、サービス、製造など、ほぼあらゆる分野でコミュニティの持続可能な発展の可能性を分析し、政策を方向付けることが出来ます。これについては、多くの資料がありますが、例えば、ロッキー・マウンテン研究所が2007年に発表した「自然資本主義によるコミュニティ繁栄の構築」という報告書は、コミュニティがどのような漏損に着目しなければならないかを分かりやすくリストアップしていて役に立ちます。
http://www.rmi.org/Knowledge-Center/Library/ER01-23_CommunityProsperityThroughNatCap