経済と人口は大きく相関します。開発途上国の発展において、若者世代が大量に存在する人口ボーナスが、経済発展に大きく貢献することは周知の事実です。では、高齢化はどうでしょうか。現在、先進国では「高齢化=社会的コスト」という議論が主流を占めていますが、本当にそうなのでしょうか。
メリル・リンチが最近発表した報告書「引退後の寄附:アメリカの長寿ボーナス」は、こうした議論に一石を投じています。報告書の主張はとてもシンプル。団塊世代の引退に伴う高齢化は、非営利セクターにとってはボーナスであり、その額は、ボランティアによる貢献1.4兆ドル、寄附による貢献6.6兆ドルの計8兆ドルと試算できる、というものです。
メリットは、これだけにとどまりません。引退した人たちは、それぞれ人脈や専門的な技能を持っています。これを活用できれば、人材不足や専門性の不足に悩む非営利セクターにとっては、大きな資産となります。逆に、引退した人たちにとっても、新たな人生の活躍の場を与えられることで、孤立化から逃れることが出来ます。
調査報告によると、確かに米国の団塊世代は、社会的関心も高く、ボランティアや寄附に対する動機も高いことが分かります。特に、女性は、男性に比べて寄附・ボランティア共に高い動機を持っています。
すでにボストンカレッジの先行研究がありますが、人類は、現在、史上初めてとも言える世代間資産移行期に入っています。大量の中産階級が蓄積した資産が、これから数十年間かけて次世代に継承されます。仮にこの資産継承が、世帯間だけでなされれば、格差の固定化につながる恐れがあります。また、相続税を通じて徴収した場合、一定の所得再分配効果は期待できますが、現在の政府機能の非効率と財政赤字を考えると、この効果は限定的にならざるを得ません。
これに対し、非営利セクターへの寄附に資産が向かえば、これは社会の活性化につながります。何よりも、ボランティア参加を通じたソーシャル・キャピタルの拡大という副次的効果があります。シニア世代の富と時間と能力をいかに活用するか、これはたぶん米国だけでなく、日本でも同様の課題だと思います。