社会的インパクト債を運営する上で最大の問題となるのは、成果をどのように貨幣換算するかです。これにより、投資リターンの有無が決定されるわけですし、何よりも、社会的インパクト債導入の成果指標となるわけですから、この決定には、まさにマルチステイク・ホルダーのアプローチが必要となります。
米国の主要シンクタンクの一つ、センター・フォー・アメリカン・プログレスが最近発表した報告書は、この点について興味深い提案を行っています。
報告書では、まず、現在の米国政府が行っている成功報酬債(PFS:Pay for Success)の評価指標は、政府支出削減見込みのみに焦点を絞っている点で一面的であると問題提起します。たとえば、受刑者の更生プログラムであれば、再犯率が減少し、これによって刑務所の運営コストが下がるだけが、成功報酬債の成果なのでしょうか。
これに対して、報告書は、これ以外にも、たとえば、犯罪が減少することがもたらすコミュニティや住人の快適さによる便益や、こうしたプログラムに対して一般の人々が公的資金を投じても良いと感じるかどうかも重要だと指摘します。再犯率の減少でコミュニティの快適さによる便益が向上すれば、地価も上がり、人々も集まるようになって結果的に経済的な便益が生み出されます。また、税金を投入する以上は、その問題が一般の関心を呼んでいるかどうかも重要な要因です。
そこで、報告書は、社会的インパクト債の評価指標として、以下の3つを組み合わせて貨幣換算することを提案します。
(1)快適さがもたらす便益(Well-being Benefit)
→成果が介入コスト以上に個人やコミュニティの生活を改善につながるかどうか
(2)納税者の意欲(Public willingness to pay)
→その成果を実現するために公的資金の追加配布が必要だというだけの重要性がコミュニティにあるか
(3)財政節減(Cashable Savings)
→政府は、このイニシアチブに資金を投じることによって財政支出の節減を達成することが出来るか
技術的な問題をどうするかはもう少し詰めた議論が必要だと思いますが、この提言はバランスのとれた考え方だと思います。センター・フォー・アメリカン・プログレスは、非常に早い段階で社会的インパクト債の導入を提案したシンクタンクで、影響力があります。この報告書も、今後、より洗練された上で、連邦政府に何らかの形で導入されることが期待されます。