日本でも生活困窮者自立支援法が制定され、子供の貧困対策が真剣に議論されています。主要先進諸国においても、貧困の問題は重要な課題です。社会的包摂を政策課題の一つに掲げるEUのFEADプログラム報告書は、この問題への取り組みについて、興味深い事例を提供しています。
FEADはThe Fund for European Aid to the Most Deprivedの略です。日本語訳としては「欧州最貧困層支援基金」とでもすればよいでしょうか。2014年に立ち上げられたこの基金は、欧州各国の最貧困層の個人や世帯に対し、食料や教育キット、路上生活者用の寝袋や簡易宿泊キットを提供するプログラムです。もちろん、必要に応じて相談支援や医療・教育サービスへのアクセス支援も行います。予算総額は2014年から2020年までの7年間で45億ユーロとなっています。
報告書によると、欧州でも5人に1人にあたる1億人が物質的に困窮した状態にあり、4人に1人の子供が貧困・社会的排除のリスクを抱えています。路上生活者はおよそ400万人、100人に1人と見込まれています。FEADプログラムは、こうした貧困層・リスク層に対する緊急支援を提供しています。
FEADプログラムの特徴の一つは、欧州委員会が各国政府に資金を分配しますが、この資金を使って実際にサービスを提供するのは、各国の非営利組織が中心であるという点です。非営利組織は、ボランティアを活用して経費を最小限に抑えつつ、貧困層に物資・サービスを提供します。
日本でも、フードバンクが設立され、また路上生活者へのシェルター提供を行う非営利組織も活動を行っています。しかし、こうした活動に対する公的支援は限られています。むしろ、直接給付から自立支援へと言うのが基本的な方向性のように見えます。しかし、当然のことながら、「自立」の前提として、最低限の食料、住居、教育は不可欠です。これがなければ、そもそも「自立」など議論できません。EUでは、欧州社会基金(ESF: European Social Fund)が自立支援を行っていますが、FEADプログラムはこれを補完するものと位置づけられています。
貧困の問題を論じると、どうしても「自己責任論」の声が強くなり、対策は後回しになります。一方で、TPP対策という名の下に農家の所得補償の拡大が声高に論じられるのを目にすると、やりきれない気持ちになります。欧州で進められている貧困対策、日本でももっと積極的に議論が進展してほしいですね。