80年代末の冷戦の崩壊により、共産圏諸国との壁が開放されたことで、グローバル・フィランソロピーは一気に拡大しました。欧米諸国の助成財団は、こぞって中東欧諸国や中央アジア諸国の民主化や体制移行への支援に参画し、日本もアジアの旧社会主義諸国の支援に官民で取り組みました。90年代初頭には、グローバルな市民社会の形成が熱気を持って語られていました。
それから四半世紀が過ぎました。インターネットの発達と経済のグローバル化の進展により、市民社会のグローバル化は進みました。しかし、近年、これに対する揺り戻しが起き始めています。中国、インド、ロシアなどの諸国は、自国内の市民社会に対する海外助成財団の資金流入を規制したり、助成財団の支部を閉め出そうとし始めています。カンボジア、ハンガリー、ユガンダなどの諸国もこうした動きに追随しつつあります。
カーネギー国際平和基金が最近出した報告書「閉じられつつある活動空間という危機:ファンダーはいかに対応しているか」は、この問題の現状と助成財団の対応状況を分析しています。
まず、この問題は従来型の「権威主義国家」や「独裁国家」という文脈だけでは語れない点が特徴です。ナショナリズムの台頭により西側諸国の介入を「陰謀」と捉える見方が広まっています。また、経済開発のために市民の活動を制限してもやむを得ないという考え方もあります。単純に市民社会の危機だけを喧伝しても問題の解決にはなりません。
この問題に対し、欧米の助成財団は政府開発機関とも協力しつつ、対応に乗り出しています。ファンダー間で情報を共有し、リスク分析やコミュニケーション戦略の改善を進め、現地ファンダーとの連携を強化しています。現地のNPOプラットフォームを通じた間接支援を拡大し、人権・民主化などの問題を正面から取り上げるのではなく、社会的企業や社会的運動への支援に重点を移しつつあります。もちろん、抑圧的なNPO法改正などに対する反対キャンペーンへの支援も忘れてはいません。
民主主義、人権、市民としての自由と責任など、普遍的な価値を守る上で、グローバル市民社会のネットワークは不可欠です。このネットワークから特定の国・地域を切り離そうという動きには国際社会が協力して対応することが求められます。日本の助成財団や援助機関にもこの問題は重要な課題だと思います。
http://carnegieendowment.org/…/closing-space-democracy…/h8ym