公共事業は、一国の経済・社会の基盤を提供します。水資源の管理、エネルギーの生産・供給、運輸、住居、その他社会・公益インフラは、我々の経済と社会を支える根幹です。従来、これは政府資金(補助金、政策金融)が中心的な役割を果たしてきました。しかし、主要先進諸国において政府財政が逼迫してくるに伴い、政府主導には限界が出てきました。日本でも、新たなインフラ整備はおろか、インフラの維持の費用さえ覚束なくなりつつあります。他方、公益性の高いインフラ事業を完全に民営化することには大きなリスクが伴います。
カナダで現在進められているCIIX(Community Impact Infrastructure Exchange)というプロジェクトは、公共事業に社会的投資資金を呼び込むためのプラットフォームを構築しようというプロジェクトです。プラットフォームは、プロジェクトをESG(Environment, Society, Governance)の観点から評価し、この情報をインデックス化して社会的投資家に提供して投資を募ることを目指します。ターゲットとして想定されているのは、年金基金などの大口の機関投資家です。
このアイディア、実は、「社会的証券取引」という形ですでに英国、シンガポール、南アフリカなどで導入されているものですが、これらは主に社会的企業への資金供給を目指しています。これに対し、CIIXはインパクト・インフラストラクチャーというコンセプトにより、公共事業への資金供給を目指す点で異なっています。
このメカニズムのメリットは何でしょうか。もちろん、民間資金の活用が出発点ではありますが、公共事業への資金供給を市場化することで、プロジェクトの透明性を高めるとともに採算性がきちんと組み込まれるようになります。さらにESG投資の視点が導入されることで、環境や持続可能性を担保することが出来るようになります。まさにインフラストラクチャー整備を通じて社会的インパクトを実現することが可能になります。
社会的インパクト投資の世界は、従来、社会的企業のイノベーションやスケールアップへの資金源という観点から議論されてきました。しかし、仮にCIIXのような公共事業をターゲットとしたものを包含するようになると、その資金規模は飛躍的に拡大します。同時に、公共事業のあり方自身も、より社会的・環境的インパクトに自覚的なものに変容する可能性があります。CIIXというコンセプト、今年パイロット事業が立ち上がったばかりですが、非常に大きな可能性を秘めたプロジェクトだと言えそうです。
http://carleton.ca/…/proje…/sustainable-infrastructure-ciix/