ここに来て、社会的インパクト債に関する様々な記事が米国の主要紙を賑わせています。ブルッキングス研究所が、今日、大規模なシンポジウムを開催することや、各州で新年度の社会的インパクト債の案件が公表されたことが影響しているようです。内容は、かなり一般的なものですが、今後は、さらに専門家も加わって密度の濃い議論を展開してほしいと思います。
そう言う観点からは、Leap of Reason Ambassadors Communityが最近出した論考「SIBs: What’s Missing?」は、今後の議論の展開を考える上で、示唆に富む論点を提示しています。Leap of Reasonというのは、ベンチャー・フィランソロピー・パートナーズを立ち上げたMario Morinoが中心になって設立した専門家コミュニティで、パフォーマンス評価に基づく政策の推進を通じて、インパクトのあるプログラム開発を主張しているグループです。インパクト志向の財団やシンクタンクには大きな影響力を持っています。
今回の論考は、以前に紹介した「ユタ州の評価指標問題」を契機に、この知的コミュニティに属しているAmbassador達が交わした意見交換を取りまとめたものです。彼らは、エビデンスを基礎とした政策を推進してきていますので、もちろん、社会的インパクト債の賛成派ですが、彼らの視点から見ても、現在の制度は改良の余地が多々あるという点で一致しています。以下、簡単にポイントだけをご紹介すると。。。
1)今までも政府機関は、成功報酬型の助成金を運営してきたわけだから、SIBは新しくない。過去の経験に照らして、SIBを発展させるためには、政府機関がきちんとSIBを監督・モニター・案件開発できるような資金と人員を整備すべき。また、政府機関と非営利組織の協力関係を構築し、政府活動の透明性と説明責任を高めることも重要。
2)「インパクト」を明確に定義すべき。「長期的な成果」と言う曖昧な表現ではなく、科学的に検証可能なデータに基づいて効果が実証されるものに限定すべき。このために、評価指標を明確にすべき。
3)公的資金を使って民間投資家にリターンを出す以上、評価は厳格かつ客観的になされるべきであり、外部専門家による透明性の高い評価を導入すべき。また、評価にあたっては、既存のアウトカム指標による分析ではなく、プログラムを通じて全体としてどのように客観的なインパクトがあったかという「ネットインパクト」評価を使うべき。もちろん、内部評価で補完することは妨げない。
4)SIBのメリットは、予防プログラムの妥当性の検証を民間資金を利用して行うことにある。このため、SIB自身は目的ではなく、プロセス。真に重要なことは、SIBでの検証を経てインパクトがあることが判明したプログラムを、政府がきちんと公的プログラムとしてフォローする体制を整備すること。
こうやって見てくると、SIBを巡る議論は、少なくとも専門家の間では確実に深まっているようです。単に、財政削減の手段や抽象的なインパクトの礼賛ではなく、このように地に足のついた形でエビデンスに基づく政策に結びつけていこうという議論は好感が持てます。さらなる議論の深まりを期待したいですね。
http://leapofreason.org/…/ambassador-insightssibs-whats-m…/…