財団の「永続性」を巡る議論

財団は基本的に、資産の維持を至上命題とします。基本資産を取り崩してまで事業を拡大するという選択肢は、通常あり得ません。その意味で、財団は「永続的」な存在と見なされてきました。しかし、最近、この問題に異議を唱える議論が米国で始まりました。財団の基本的な性格に関わるこの議論、興味深いので紹介しておきます。教科書的に言えば、財団とは「資産」に法人格を付与したものです。この点で、「人の集まり」に法人格を付与した社団とは異なります。特定非営利活動法人も、どちらかと言えば後者に該当します。財団が「資産」を法人格の基礎とする以上、その資産を永続的に保持することは、財団の活動にとって、自明のこととされてきました。実際、20世紀初頭に設立されたフォード財団、ロックフェラー財団、カーネギー財団などの主要財団は、世紀を超えて重要な活動を続けています。

しかし、最近、この考え方に異議を唱える財団が出てきました。たとえば、現在、世界最大規模を誇るゲイツ財団は、ゲイツ夫妻の死後、50年以内に財団資産のすべてを使い切るよう定められています。これはゲイツ夫妻の「財団の自己維持よりも社会的問題の解決を優先したい」という意向によるものです。

こうした新たな動きを踏まえ、スタンフォード大学とボストンカレッジの教授が連名で、「現在か未来か:財団のライフサイクル再考」という論文をクロニクル・オブ・フィランソロピー誌に掲載しました。論文は、以下の理由から、財団の永続性に対して疑問を呈しています。

1)現代のように、急速に社会が変化していく時代では、財団設立時の理念がそのまま長期にわたって有効性を保つことは困難。

2)低金利の時代において、財団資産の運用収入だけで事業を行うというビジネスモデルは成立しにくくなっている。

3)政府の予算削減状況の中、財団が社会的課題の解決やグローバルな課題の解決において果たす役割が大きくなっている。これに対応するためには、財産の取り崩しを視野に入れた積極的な財団の活動が求められる。

4)実際、ゲイツ財団に続く形で、財団資産を使い切ることを宣言する財団が増えてきている。

この問題提起は、財団とは何かを考える上で、重要な視点を含んでいると思います。

この問題に対する私の基本的なスタンスは、(1)まだ20世紀型財団モデルは有効性を持っている、(2)金利低下や需要増の問題には、資産取り崩しではなくプログラム関連投資の拡充で対応は可能、(3)先進国政府の財政支出は、どうしても有権者を意識せざるを得ないため短期的な視野に陥りがちである。このため、財団のように長期的な視野から新たな領域を切り開いていく存在は社会的装置として不可欠、(4)現実に、多くの20世紀型財団が、それぞれの時代状況に応じて柔軟に戦略を再定義して問題に取り組んでおり、有効性は証明されている、というものです。

とは言うものの、財団の設置目的や戦略によっては、基本財産使い切りというオプションを取っても良いとは思います。この意味で、現在の日本の公益法人制度は、やや柔軟性に欠けると思います。

この議論、皆さんはどう思われますか。論文の著者は、スタンフォード大学で既にこの問題についての有識者会議を開催したとのこと。この成果を含めて、今後の議論の展開が気になるところです。

https://philanthropy.com/ar…/Opinion-Now-or-Forever-/235896…

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