米国では、「金融包摂」政策の中核として「金融能力(Financial Capability)」の向上が注目を集めています。実は、4月は「全米金融能力向上月間」キャンペーンが展開されていて、各地で金融能力の向上を目的としたイベントが展開されています。こうした中、オバマ政権は、新年度予算案に「ファイナンシャル・イノベーション・ファンド」の設置を盛り込みました。深刻化を増す「格差・貧困問題」に取り組む上で新たな切り札となることが期待される金融包摂政策を今回のファンドが大きく後押しするかどうか、注目が集まっています。
「金融包摂」とは、何らかの理由により通常の金融サービスから排除された人達に対して、利用しやすい形で金融サービスを提供することで、社会的排除を解消しようという取り組みです。従来は、「金融リテラシー」の向上が中心的な役割を果たしてきましたが、近年、単なる知識だけでなく、金融サービスをきちんと活用できる「金融能力」の向上へと重点が移ってきています。
ただ、金融能力が向上しただけでは、金融排除は解消されません。金融包摂を通じて格差・貧困からの脱却を目指すには、何よりも貯蓄を奨励する必要があります。米国の場合、低所得者層が職業訓練を受けたり、子供の教育資金を確保するために「個人開発口座(IDA: Individual Development Account)」を開設することを奨励しており、貯蓄にマッチング・ファンドを行うことで支援しています。このプログラムは、「自立のための資産形成支援(AFI: Assets for Independence)プログラム」と呼ばれています。
今回のアセット・イノベーション・ファンドは、このAFIプログラムの枠内で設立される新たなファンドです。ファンドの資金は、すべての子供の貯蓄を確保しようという「子供向け貯蓄口座(CSA: Children’s Saving Accounts)」の支援や、貧困家庭が急な資金繰りに対応するための緊急口座の開設の支援などに利用されるとのことです。これにより、貧困層の「金融面での健全性(Financial Health)」がより向上することが期待されます。
こうした一連の政策の目標は、貧困層や潜在的なリスク層が、「負の連鎖」に陥ることがないよう金融面でのセイフティネットを確保することにあります。近年の家計調査で明らかになったように、低所得者層は収支の変動が大きい一方、この衝撃を吸収できるだけの貯蓄がないため、結果的に高利のインフォーマル金融に頼らざるを得なくなり、金利負担から「負の連鎖」に陥るリスクが極めて高くなります。「金融能力」の強化や「口座開設」支援を通じて、「金融面での健全性」を向上させるという一連の取り組みと、これを支える新たなファンドの設置は、こうした背景の中で理解される必要があります。
格差・貧困の問題が深刻化し、奨学金の返済が大学卒業生の負担となっている日本でも、状況は同じです。日本においても、早急に「金融包摂」を政策の柱の一つとすることが求められています。
http://cfed.org/…/an_asset_innovation_fund_could_take_idas…/