主要国で開発が進められているオープン・データ。これがもたらすインパクトの功罪をケース・スタディを通じて明らかにした報告書をオミディヤ・ネットワークとGovLabが取りまとめました。今後のオープン・データ政策の進展に影響を与えるものとして注目されます。
オープン・データとは、主として公的機関や大学等の教育・研究機関が、保有しているデータを一般に公開し、様々な団体がこれを利用できるようにしようという取り組みです。報告書のケース・スタディでは、ブラジルの「開かれた予算透明性ポータル」、カナダの「非営利情報リターン・データ」、スロベキアの「開かれた公共調達プロジェクト」、米国の「グローバル気候データ」、シエラレオーネの「エボラ熱撲滅プロジェクト」など多数の事例が取り上げられています。
基本的に、これらのオープン・データ・プロジェクトは、経済機会を提供し、政府活動の透明性と説明責任を高め、市民のエンパワーメントに貢献し、公共問題の解決に役立っています。
オープンデータのインパクトは、政府と民間のパートナーシップ、公的インフラストラクチャーの整備、促進政策とそれを支えるパフォーマンス・メトリックスの開発、問題の抽出などを通じて促進することが出来ます。他方、課題としては、準備の有無、反応の高さ、リスク、資源分配などがあげられます。せっかくデータをオープンにしても、これを活用する団体側で準備が出来ていなかったり、迅速に反応できなかったり、あるいは十分な資金が用意されていなかったりした場合、そのインパクトは損なわれます。
今回の報告で最も衝撃的だったのは、プライバシーやセキュリティに関するリスクです。2009年に米国カリフォルニア州で匿名の形で立ち上げられたあるサイトは、同性婚推進グループに資金を提供している団体の名称、位置、寄付金額、さらに従業員の氏名までを公開情報に基づいて調査し、これをマッピング情報の形で公開しました。目的は、もちろん、同性婚の法的阻止です。これは非常に危険な情報ですが、現在のテクノロジーとオープン・データにより現実化してしまいました。
報告書は、こうした事例研究を踏まえ、今後、オープン・データ政策を推進していくための10の提言を取りまとめています。その中には、カリフォルニア州の事例を踏まえて、リスク管理とプライバシー保護の強化が盛り込まれていることは言うまでもありません。
日本政府も、現在、オープン・データ政策を推進しています。それ自体は歓迎すべきことであり、ぜひ政府活動の透明性を向上させ、説明責任の強化に取り組んでほしいと思います。特に、予算執行の透明化や政府調達・補助金情報の提供は重要ですし、市民活動の促進やビジネスでの利用促進も重要です。他方、思わぬところでプライバシーやセキュリティが損なわれるリスクもある点に十分に留意する必要があります。この点で、今回の報告書は重要な示唆を与えてくれると思います。