文化・芸術の価値をどう評価するか

英国の芸術・人文学研究協議会(AHRC)が、文化芸術の価値評価に関する報告書を発表しました。今後、英国の文化芸術評価手法を検討する上で出発点となる重要な報告書だと思われます。

文化・芸術に関わる人間であれば、誰でもその価値をどう評価すれば良いかという問題に悩まされたことがあると思います。創造的で個人的な営みを評価できるのかという疑問がある一方、特に公的資金を投入したり個人の寄付を受けたりする場合には、きちんとその社会的価値を評価すべきだという考えは当然出てきます。これをどうバランスすれば良いのか。今回の報告書は、これを考える上で様々な示唆を与えてくれます。

報告書は、文化の価値を評価する様々な視点を提示します。具体的には、以下の視点が考えられます。

■個人の成長
⇒文化芸術の経験は、自己に対する反省を促し、他者への思いを育みます。たとえば、この経験は、犯罪者の更生にも役立ちます。

■市民の育成
⇒文化芸術の経験を通じて、人は市民としての自覚を育みます。これは、時に、市民参加を促進し、また紛争後の和解にも貢献します。

■コミュニティの再活性化
⇒文化芸術は、コミュニティのアイデンティティを明確化し、コミュニティの結合力を高めてこれを活性化します。様々なコミュニティアートやアートスペースが、これを促進しています。

■経済への貢献
⇒クリエイティブ産業論が明らかにしたように、文化・芸術は、それ自身、産業として経済効果を持ちます。

■健康と幸福
⇒文化芸術の経験は、個人の幸福を高めます。文化芸術活動は、健康の維持・向上にもポジティブな効果があります。特に、高齢者にとって、文化芸術経験は健康を向上させ、認知症予防にも効果があるとされています。

報告書は、このような様々な視点を提示した上で、文化芸術を評価する上での論点を列挙していきます。おそらく、文化芸術を評価する上では、総括的評価よりも、参加型評価や形成的評価の方が有効でしょう。定量的評価だけでなく、定性的評価にも配慮されるべきです。英国では、コスト・ベネフィット分析に基づく経済価値評価が発展していますが、一定の条件付で、文化芸術事業もその対象に加える必要があります。同時に、主観的な幸福度を評価する手法も積極的に開発される必要があります。

以上の分析を行った上で、報告書は、注意深く、早急な結論を避けるように勧告しています。特に、文化芸術の評価が、安易なアカウンタビリティやアドボカシーのためになされることがないよう強く戒めています。そして、この分野における議論をより深めていくために、研究機関に「文化的価値研究センター」を設立し、さらに理論・実践両面での研究を行うよう提言しています。

いかがでしょう。私は、この報告書、非常に良くバランスが取れていると思います。文化・芸術の評価を巡る議論の今後に方向性を示した点で評価できるのではないでしょうか。日本でも、ぜひ参考にしてほしい資料だと思います。

http://www.ahrc.ac.uk/…/cultural-value-project-final-report/

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