米国では2011年に社会的インパクト債(SIB: Social Impact Bond)が初めて導入されました。その後、連邦政府が成功報酬債(PFS: Pay For Success Bond)として正式に事業を開始し、現在は10件の事業が現実に立ち上がっています。この第一世代のPFSの報告書を、ノンプロフィット・ファイナンス・ファンドが公表しました。米国PFSの現状と課題を知る上で、非常に有益な報告書となっていますので紹介しておきます。
以下、10件の事業を通じて得られたPFSの現状です。
1.マーケット概要
⇒PFSは案件組成に手間とコストがかかるため、最低でも500万ドルから1000万ドル程度の規模は必要だというのが共通理解。現時点で最大規模の案件は、マサチューセッツ州の青少年再犯予防プロジェクトの2170万ドル。
2.プロジェクトの担い手
⇒事業者、資金提供者、資金仲介者、評価者が核となるがこれ以外にも、評価の検証者、プロジェクト・マネージャー、外部法律コンサルタントが必要だと判明。特に、案件組成のためのテクニカル・アシスタントが重要な役割を果たしている。
3.事業目的
⇒既存モデルのスケールアップを目指すものが大半。残りは、既存モデルの他地域への移植と、新規事業の成果の検証。但し、スケールアップについては、現状のアウトリーチ数の規模が小さいため、疑問視する意見もある。
4.評価手法
⇒ランダム実験モデルまたは疑似ランダム実験モデルが評価手法の中心。評価期間は3〜4年から最長17年。また、多くのプロジェクトは、金銭的リターンに直結しない成果の評価も組み込んでいる。
5.投資枠組み
⇒優先部分を金融機関、劣後部分を財団が担うというのが基本構造。一部の案件では、劣後部分を財団が信用保証という形で担うケースもある。
6.リターン条件
⇒投資の償還期間は3〜4年から最長17年。リターン率は、一般化が難しいが、通常は市場レートよりも低い3〜7%。但し、ゴールドマン・サックスの案件は10%以上を設定。
7.その他
⇒多くの場合、プロジェクトのモニタリングと監督のための委員会が設立されており、少なくとも月1回は会合を持っている。正式なプロジェクト報告は、四半期毎だが、会合でも月例報告を行っている。
⇒プロジェクトのコストをどこまで含めるかについて議論がある。案件組成に関するコストを含めるかどうか、また連邦政府の補助金(家賃補助、医療費補助)などを活用した案件の場合、これをコストとして含めるかどうかがポイント。
また、報告書は、PFSの現状だけでなく、今後の動向を占う上でも興味深い示唆を与えてくれています。様々なポイントがあると思いますが,私が興味を持ったのは以下の点です。
1.資金の出し手
⇒当初、民間資金の導入を掲げて導入されたPFSですが、実際に動かしてみると、予想以上にコストと手間がかかり、その割にリターンが低いため、民間金融機関の参入は低調。実際には、財団のプログラム関連投資のようなフィランソロピー資金でリスクをコントロールし、資金の提供はコミュニティ財団が担うというのが現実的になりつつある。
2.新たな分野
⇒当初、PFSは、幼児教育や青少年非行予防など、予防的措置の分野に適用することを基本とした。これに、新たな分野として、ホームレス用住居支援や保健サービス施設、在宅看護サービスなど、政府の補助金で一定程度の安定した収入がある事業に適用して、このスケールアップや移植を図るという事業が開拓されている。既存の財政支出のレバレッジを図るという点に主眼。
このように、PFSは短期間の内に学習と発展を重ねてどんどん進化しています。やはり現実に適用してみないと分からないことが多いということですね。この報告書は、今後の日本での導入においても参考になると思います。ご関心のある方は以下のサイトをご覧下さい。