欧州で発展する「社会革新インキュベーター」ネットワーク

「社会革新(ソーシャル・イノベーション)」発展の鍵は、画期的なアイディアとこれを実現するマネジメント能力を持った個人や団体をいかに育てていくかにあります。どんな良いアイディアも、現実化とスケールアップ過程で必要な支援がなければ社会実装されません。「社会革新インキュベーション」が求められます。

欧州委員会が最近出した報告書「ソーシャル・イノベーションのスケールアップ」は、こうしたインキュベーションを支える欧州の2つのネットワークの活動を分析し、これを踏まえて今後の課題を析出しておりが興味深いです。

報告書に取り上げているのは、BENISIとTransitionの2つのネットワークです。それぞれの特徴は以下の通りです。

■BENISI
⇒Building a European Network of Incubators for Social Innovationの略称。欧州全域にまたがるソーシャル・イノベーションのインキュベーションを専門とする団体のネットワーク。インパクト・ハブなどの中間支援組織とベンチャー・フィランソロピーを行っている財団などにより構成される。
⇒主要活動は、ソーシャル・イノベーションに関する情報の収集と共有。このために様々なイベントの開催やウェブサイト上での情報発信を行う。
⇒また、ソーシャル・イノベーション・アクセラレーター・ネットワーク(SIAN)を設立し、SIANアワードを授与するなどの活動も行う。

■Transition
⇒Transnational Network for Social Innovation Incubationの略称。ミラノ、ロンドン、バスク、アイルランド、リスボン、パリに拠点を持つ。ヤング財団やNESTA、ポルトガル社会的企業庁など官民の主要団体がパートナーとなっている。
⇒ソーシャル・イノベーションの発展のために、欧州初の研究者・実務家会議を組織。また、300以上のプロジェクト支援など、ネットワーク、情報共有、直接支援などの活動を行っている。
⇒欧州ソーシャル・イノベーション・インキュベーション・ネットワーク(ESIIN)を設立し、実務家によるネットワーク形成に取り組んでいる。

報告書は、この2つのネットワークについて、それぞれ今までの活動を評価し、両者の相違と共通点を検討し、今後の発展のための提言を取りまとめています。また、ケース・スタディとして、実際にこの2つのネットワークが支援したソーシャル・イノベーション事例の分析も行っており、参考になります。

簡単にまとめれば、BENISIが草の根レベルの実践者のネットワークであるのに対し、Transitionは財団やシンクタンク、官庁などによるドナー主導のネットワークだと言えるでしょうか。BENISIのような草の根ネットワークがなければソーシャル・イノベーションを拡大することは出来ませんが、Transitionのようなドナーのコミットメントがなければ、支援手法の洗練や組織的なスケールアップは不可能です。その意味で、両者は補完的な競争関係にあると言えるでしょう。

欧州では、これ以外にも様々なネットワークが設立され、それぞれ独自に活動を行っています。欧州委員会も、この報告書も含めて、現状の把握と政策への反映に努めています。ソーシャル・イノベーションをかけ声に終わらせるのではなく、インキュベーション支援の拡大に向けて積極的に取り組む欧州の先行事例は、今後、日本にとっても重要な示唆を与えてくれると思います。

http://transitionproject.eu/…/Scaling-Social-Innovation_BEN…

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