先進国で注目を集めている「社会的インパクト債」。基本は、成果報酬型グラントで、資金を民間投資家から募集するというものですが、同様の試みが開発協力の世界でも「開発インパクト債(DIB: Development Impact Bond)」として進められています。この第一号案件の初年度報告が発表されましたので、共有しておきます。
第一号案件は、インドのラジャスタン地方の少女を対象とした教育プログラム。The Educate Girls Bondと名付けられたこのメカニズムは、ラジャスタン地方の140のコミュニティの168の学校を対象に、少女達の就学を支援し、教育機関全体の水準向上を目指します。プロジェクトは18,000名の子ども達にアウトリーチすることを目標としています。
枠組みは、UBS Optimus Foundationが投資家として当初資金を提供し、プロジェクトが成功した場合には子ども投資基金財団(CIFF: Children’s Investment Fund Foundation)が報酬を支払うことになっています。通常の社会的インパクト債では、後者の役割を政府が担うのですが、今回は財団です。この点は、少し補足説明が必要でしょう。
実は、私も、このプロジェクトが立ち上がったときに、「なぜ政府や開発協力機関ではなく財団なんだろう?」と疑問に思ったのですが、今回の記事を読んで納得しました。なんと、このプロジェクト、もともとは英国開発省が導入を検討してEducate GirlsというインドのNGOと交渉していたのですが、申請書の準備まで進んだところで英国側がキャンセルしたのだそうです。そこで困ったEducate Girls側が、全世界でプレゼンをした結果、1年近くかかってようやく資金提供者を見つけたとのこと。関係者の熱意には本当に頭が下がります。
今回は、3年計画の第1年目が終了したわけですが、今まで学校に通えなかった少女達の44%が既に就学を果たしたとのこと。水準向上の方は23%しか達成されていませんが、今後の2年間で状況は改善されるだろうと期待されています。
気になるのは資金規模ですが、UBSの初期投資は267,000ドル。3年後に目標が達成されれば、CIFFは10%のリターンを、これを超えると15%のリターンを報酬として支払うと言うことです。また、UBSは初期投資額の35%を奨励金としてEducate Girlsに還元することも定められています。
今回の報告、契約締結から実施まで、かなり細かく記載されていて、本当に参考になります。それほど長いものではないので、ぜひ記事をお読みいただければと思います。
その中でも、特に印象的だったのは、「なぜ開発協力の世界に、成果連動型グラントを導入するか?」についてのコメント。関係者が強調するのは、「援助する側と援助される側が、目標を共通し、データに基づいて、その実現に努力するようになったことで、両者の関係性が大幅に改善された」という点です。
今回の報告で、成果報酬型グラントの最大の魅力は、財政削減や投資家のリターンではなく、成果目標の共有とデータに基づいた実践が制度化されるにあるという点が改めて確認された形になりました。この議論、もちろん、開発協力債だけでなく、社会的インパクト債にも当てはまります。この点、日本でも改めて共有されることを願っています。
https://www.devex.com/…/a-look-inside-the-educate-girls-dev…