現在の経済システムの根幹にある指標は何でしょうか。色々考えられますが、 GDP(国民総生産)は最も重要な経済指標のひとつでしょう。GDPは、中央政府や地方政府の国債、地方債の格付けに影響を与え、また、株価にも大きな影響を与えます。GDPが下がれば、政府は当然責任を問われますから、必死になってGDPの成長を促進するための経済政策を打ち出します。現在の経済システムは、ある意味において、GDPを中心に回っていると言っても過言ではありません。
しかし、考えてみれば、GDPは1年間の生産と消費の総体を表すだけの指標であって、我々の経済活動が庶民の生活に及ぼす影響や環境に及ぼす影響を反映しません。極端な話、庶民の生活水準が悪化してもGDPさえ上がれば、経済政策は成功していると見なされるわけです。そして、このような例は、「雇用なき成長」を謳歌した2000年代初頭の米国や、現在、債務危機から抜け出すために大幅な歳出削減を行っているギリシャに至まで、世界各国で実際に起きています。
そもそも、GDPは、第二次世界大戦において、戦争遂行のために産業を総動員するための指標として米国で開発されたものです。戦後、様々な議論があったにもかかわらず、GDPはそのまま存続し、国家の経済状況を表す指標として一般化するようになりました。戦時体制の、生産能力に特化した経済指標が、なぜか平時にもそのまま使用されているところに問題の根源があります。
ではGDPの代替策はどのようなものがあるのでしょうか。有名なものに、ブータンが提唱している「国民総幸福指数(GNH:Gross National Happiness)」があります。しかし、これは経済とリンクさせるには少し理念的すぎるようです。このような観点から、ジョンズホプキンス大学政策研究所が提唱しているのが、GPI(Genuine Progress Indicator)です。この指標は、経済、環境、社会の3つの基準に基づきます。例えば、経済であれば、個人消費や所得格差、物価調整後の個人の購買能力、失業に伴う社会的コストなどが指標に組み入れられます。環境であれば、水や大気の汚染、二酸化炭素排出による損害、農地や湿地の損失などがカウントされます。社会であれば、市場化されない家内労働、犯罪や交通事故のコスト、高等教育の普及度やボランティア活動などが組み込まれます。このような指標を組み込むことで、GDPが着目する経済活動の「量」ではなく、私たちの生活の「質」に焦点を当てた、新たな経済政策を発展させていこうというのが、GPIの発想です。夢物語のように思われるかもしれませんが、ここメリーランド州は、GPIを実際に経済政策に取り入れようとしています。
GDPの呪縛を離れることで、もしかしたら、私たちは、現在の生産能力と消費能力の向上にあまりにもとらわれすぎた経済政策から解放されるかもしれません。GPIの試みは,新しいパラダイムに向けた第一歩なのです。
http://genuineprogress.net/genuine-progress-indicator/
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