スモールマート革命:地域に富を蓄積・循環させる新たなシステムを目指して

私も翻訳メンバーの一人として参加させていただいた「スモールマート革命:持続可能な地域経済活性化への挑戦」(マイケル・シューマン著 明石書店)が刊行されましたのでご紹介します。帯のコピーは「新たな富の地域循環システム:TPP時代の地域経済生き残り方策を模索するすべての行政、ビジネス、NPO、コミュニティ、そしてアカデミズム関係者必読の政策ガイダンス!」です。訳者の一人としてこういう言い方をするのはちょっと気が引けますが、看板に偽りのない、総合的かつ実践的な名著です。

日本でも地方経済の空洞化は深刻です。シャッター商店街や人口減少は深刻な問題です。アメリカでも、コミュニティ経済の衰退は非常に大きな問題となっています。では、このためにどのような対策を取ればよいのでしょうか。従来のコミュニティ経済対策の処方箋は、地方政府が借金をしてでも良いから公共投資を行い、インフラを整備して大企業を誘致する、というものでした。ウォルマートに代表される大企業誘致が雇用と富を生み出すという考え方です。

「スモールマート革命」は、この考え方に異を唱えます。大企業の誘致は本当に地域に富をもたらすのでしょうか。確かに、一定程度の雇用は生まれますし、投資による一時的な経済効果はあります。しかし、それは地方政府の借金によって賄われます。また、大企業が地域で稼いだお金は、従業員への給与となけなしの法人税を除けば、その大半は企業本部に流れていきます。逆にウォルマートのような大規模店舗が進出すれば、確実に地元商店街は打撃を受けます。地方政府の借金返済も馬鹿にはなりません。ということで、実はこの手法は割にあわないのです。そもそも、経済的なメリットがなければ大企業はさっさと撤退し、より安い労働力を求めて海外に移転してしまうことは日本もアメリカも同じです。その後には、ただ廃墟と借金が残されるだけです。

では、どうすればよいのか。「スモールマート革命」は、このような大企業誘致政策のオルターナティブとして、地元中小企業を軸とし、地元に富が蓄積・循環するシステムを提唱します。政策の主眼は、地元中小企業の育成・発展です。起業家育成のためのインキュベーション・プログラムを立ち上げ、企業支援のためのファンドを設立し、さらに地方政府の調達契約に関する公開入札では積極的に地元企業を優先する。さらに、地元購入キャンペーンを地方政府自らが行う・・・・、と言う形であらゆる政策メニューを動員することを提案しています。

同時に、「スモールマート革命」は、地元に富が蓄積する仕組み作りについてもユニークな提案を行います。例えば、地方の人が都市銀行に預金したとしましょう。その資金は、都市銀行を通じて地方外に投資されてしまい、地方には還元されません。もしも、地方で資金調達をしたいと思ったら、逆に高い金利を支払って都市銀行から金を借りることになります。今のシステムは、地元から富が流出するシステムになっているのです。これに替わって、地元資金を地元内で循環させる仕組み作りを行わない限り、地方経済の問題は解決されません。そのためには、例えば、地元の年金基金や共済組合の資金は地方銀行で運用する、コミュニティ金融機関を最大限活用する、さらに地域通貨や地域投資組合などを立ち上げる・・・、と言う形で、資金を地域内に循環させる必要があります。逆に言うと、こうした政策が成功すれば、現状でも地域は十分に再生可能な経済システムを作ることが出来ると言うのが「スモールマート革命」の議論です。

グローバル化が進む中で、地方経済をどのように立て直し、活性化させるか。これは、すべての先進国が共通して抱えている課題です。この問題に、今までとは違った発想で切り込み、地産地消、地域通貨、町おこし、スマート・シティ、スマート成長、スローフード、スローマネーなどの多様な動きを統一的に捉え、かつ政策的に推進していこうと提案する本書は、同じ問題に直面している日本に取っても様々な有益な示唆を与えてくれています。ご関心がある方は、ぜひご一読下さい。

http://www.akashi.co.jp/book/b128090.html

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