社会的インパクト投資が目指すのは、言うまでもなく社会的インパクトです。投資である以上、これをマーケットの力を借りて追求することになります。そして、マーケットにおいてインパクトを実現するためにはスケールが必要です。特に、BOP市場のように低所得者層を対象に、彼らが手の届く範囲の価格で良質なサービスを提供するためには、「薄利多売」=「スケールアップ」が欠かせません。
昨年、デロイトが発表した「パイオニアを超えて:包摂ビジネスをスケールアップさせる」という報告書は、この問題に包括的に取り組んでおり、おそらく今後の議論の基礎となるものだと思われます。
彼らの議論はシンプルです。社会的インパクト投資家がパイオニア的なイノベーションに資金を投じてビジネスモデルを作ってもスケールが出来ない理由となる障害を(1)事業者、(2)バリュー・チェーン、(3)公共財、(4)政府の4つのレベルに分けて分析し、それぞれのレベルでどのような障害があり、これを解決するには、どのような対応が必要かをケース・スタディを通じて分析していきます。
その上で、報告書は、ターゲットとなるインダストリーにおいて、イノベーションをスケールさせる上で重要な役割を果たす「インダストリー・ファシリテーター」を構築・支援することを提唱しています。従来、この役割は政府が担うと考えられてきましたが、ガバナンス能力が低い開発途上国の場合には、国際機関、財団、中間支援団体、非政府組織など多様なプレイヤーがこの役割を担いうると言うのが彼らの主張です。
逆説的な言い方ですが、市場は自ら市場を作り出すことは出来ません。市場を成立させる上で不可欠な情報、インフラ、ガバナンスなどの公共財は市場内で調達できないからです。市場を発展させるためには,市場内のアクターの能力増強やイノベーション促進だけでなく、市場制度自体の基盤整備が必要です。このレポートは、改めて社会的インパクト投資市場においても、このことの重要性を認識させてくれます。