GIINが、米国のコミュニティ投資における社会的インパクト投資スケールアップの可能性に関する新たな調査報告を発表しました。さすが、GIINらしく、米国コミュニティ投資における投資家、投資先、投資商品を細かく分析し、さらに投資家(財団、銀行、個人投資家、社会的インパクト投資家・・・)それぞれの選好を調査した上で、今後のスケールアップの可能性について具体的な提言を行っており、読み応えがあります。
米国のコミュニティ投資自身の歴史は長く、70年代にコミュニティ再投資法が導入された頃に遡ります。90年代には、コミュニティ開発金融基金が設立されて、コミュニティ開発金融機関の全米ネットワークが出来、コミュニティ開発投資は、米国における貧困コミュニティや低開発コミュニティの発展に大きく寄与してきました。2000年代に入っても、コミュニティ投資に関する減税措置の導入などの政府政策が、これを後押ししてきました。
しかし、近年の米国の規制の変化や、海外向けクラウド・ファンディングの拡大などにより、コミュニティ投資は減少傾向にあります。こうした状況を打開するために、社会的インパクト投資家を米国のコミュニティ投資マーケットにどのように呼び込むかが、この報告書の中心的な問題設定です。
報告書では、様々な提言がなされていますが、中心となるのは、投資家の多様な選好に応じた投資商品の開発およびこれに関連した客観的で統一的なレーティングやベンチマークの確立、投資の流動性を高めるためのセカンダリー・マーケットの確立、民間投資家のリスクを低減する政府や財団の資金支援などです。さらに報告書は、こうした問題を解決し、投資家と投資先をつなぐ投資プラットフォームの構築が不可欠であると提案しています。
この議論、非常におもしろいと思いますし、今までの社会的インパクト投資に関する制度論を踏まえていて説得力があります。ただ、気になったのは、流動性の拡大をかなり強調している点。確かに、投資家にとっては、利益を確保するためにいつでもエグジットできるということは投資の基本条件でしょう。しかし、株式会社と異なり、コミュニティはリストラしたり倒産することは出来ません。そこに人がいて生活をしていく限り、投資資金を安易に引き揚げることは出来ないし、かりにこれを制度化してしまうと、コミュニティの脆弱性が高まるリスクを伴います。
一定程度の資金を確保するための流動性の確保と、コミュニティの持続可能な発展のための安定性の確保をいかに両立させるか。この複雑な問題を解決するための制度設計に関する議論がさらに必要ではないかというのが、このレポートに対する私の率直な感想です。いずれにせよ、この報告書は、今後のコミュニティ投資における社会的インパクト投資の発展を考える上で出発点となる重要な調査報告だと思います。
http://scholars.unh.edu/cgi/viewcontent.cgi?article=1256&context=carsey