社会的インパクト債の「失敗」を回避するためのガイドブック

米国版の社会的インパクト債である「成功報酬債(Pay for Success Bond)」は拡大を続け、法制化や政府の資金支援も発展しています。他方、先日お伝えしたユタ州の事例のように、その成果や資金配分のあり方についての疑問も呈されるようになりました。

こうした状況の中、オレゴン公共政策研究所、公益研究所などの非営利民間シンクタンク連合が、成功報酬債の獲得に走る州政府や自治体向けに、成功報酬債のリスクを正しく認識し、「万能薬」ではなく「公共政策の一オプション」として冷静に議論するためのガイドブックを発表しました。このガイドブック、とかく理念先行で拡大を続ける成功報酬債の抱えるリスクや問題点を客観的に整理していて参考になります。

ガイドブックが指摘する成功報酬債の問題点は以下の通りです。

1.成功報酬債はコスト削減にならない。
→成功報酬債には計上されない隠れコストとして、運営に係る行政コストや間接経費がある。

2.成功報酬債は、問題の真の解決につながらない
→明確な成果に連動した報酬という体系は、様々な社会課題が抱える複雑な社会的背景を単純化してしまう。

3.成果測定が困難
→厳密な意味でのインパクト測定はRCTが必要だが、成功報酬債で導入されている成果測定指標は恣意的。

4.政府には引き続きリスクが伴う
→成功報酬債の「売り」の一つに、政府のリスクを民間投資家に「移転」することが出来る、というものがあります。しかし、現実には、事業がうまくいかなければ、投資家は損失を最小化するために契約を放棄します。しかし、プロジェクトで支援している非営利組織とそのクライアントはもちろん投資家が資金を引き揚げても存在していますから、結局、政府がその補填を行わざるを得ません。

以上の問題点を指摘した上で、ガイドブックは、このような問題が発生しないよう、成功報酬債の導入を検討する前にチェックすべき事項をリストアップしています。それは、他のオプションがないのか、その介入措置は適切か、契約条件はどうなっているのか等々、多岐にわたっていて役に立ちます。

このガイドブック、成功報酬債という手法を全面的に否定しているわけではもちろんありません。ただ、成功報酬債は「政府のリスク無しで社会的課題を解決するモデルを発展させ、しかも財政支出削減につながる」というあまりにも楽観的な幻想を、きちんと現実的に見直そうと主張しているだけです。この意味で、ガイドブックは成功報酬債を巡る米国内の議論が、成熟してきたことを表しているような気がします。

http://www.inthepublicinterest.org/a-guide-to-evaluating-p…/

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