持続可能な開発のための2030アジェンダの一つに「飢餓の撲滅」があります。従来、飢餓の問題は、開発途上国や災害・紛争地域に特有の問題だと考えられてきました。しかし、近年の「子供の貧困」や「下流老人」の報道で明らかになってきたように、この問題は確実に先進国にも浸透しつつあります。人が、最低限の生存を確保するために栄養を摂取できるシステムをどう構築するか、これは国際社会の共通課題になりつつあります。
ロックフェラー財団が立ち上げたYieldWiseと言うイニシアチブは、この問題に取り組むために1億3000万ドルの資金を投じる野心的な事業です。さすがにロックフェラーらしく、アフリカでまずプロジェクトを開始しましたが、将来的には先進国にも展開する予定で、しかも、グラントだけでなく、社会的インパクト投資もフルに活用しようとしています。
プロジェクトはまだ始まったばかりですが、アフリカでは、農畜産業における生産物のロスを減らすための食料保存・流通システムの改善に力点が置かれるようです。マイクロファイナンスを活用して農民達に食糧倉庫の設置や日干しなどの保存食品化技術の普及を促し、さらにサプライチェーンの改善を支援することで、フードロスを最小限に抑える戦略をとります。
他方、先進諸国については、むしろ流通と消費に重点を置くようです。たとえば、フード・バンクや子供食堂のようなNPO活動に対して、大手食品企業やスーパーが期限切れになる前に良好な状態で食料品を提供したり、型崩れなどの理由で栄養的にも衛生的にも問題はないが商品価値が下がった食料品を提供したりという、仲介プラットフォームを強化するという方向性が考えられます。
いずれの手法も、従来の手法である「チャリティ」でなく、ビジネス・モデルの改善を通じたフードロスの削減に切り込んでいるところが、ロックフェラー財団の革新的手法だと言えます。
「豊かな社会における飢餓」の問題。この不合理は、現在のITテクノロジーを駆使した流通管理システムを活用すれば解決可能です。問題は、誰がこれに取り組むか、という点です。この部分に、財団のリソースを投入し、最終的にビジネス・モデルを作っていこうというロックフェラーの新たな野心的な試みがどのようなインパクトをもたらすか注目されます。
https://www.rockefellerfoundation.org/…/initiati…/yieldwise/