日経がFinTech特集号を発行し、先日はNHKのクローズアップ現代がFinTechを取り上げるなど、日本でもようやくFinTechが動き出しました。FinTechというのはFinance / Technologyの略で、金融商品やサービスに最新のITテクノロジーを導入しようという動きです。海外では、ITベンチャーが参入して、デジタル通貨、オンライン銀行、オンライン決済など様々なサービスを導入して新たな市場を作りだし、主流の金融機関を脅かしています。
実際、日本での取り上げ方は、「FinTechの波で、今までの主流金融機関のサービスが時代遅れとなる恐れがある。これに対抗するために金融機関も積極的にFinTechを導入しなければならない」という議論になっています。そして、FinTech活用例として、スマートフォンを活用した顧客サービスの充実や、人工知能によるビッグデータ分析でのコスト削減などが例としてあげられています。
しかし、実はFinTechは、現在のソーシャル・イノベーションの最先端でもあるのです。その動きは、既に2000年代初頭、開発途上国のマイクロファイナンスで始まっていました。ケニヤに導入され、その後、急速に広がっているM-Pesaと呼ばれる電子銀行システムがその代表例です。M-Pesaの導入により、村に一つ携帯端末があれば、どんな僻地であっても村人は個人の銀行口座を持つことが出来るようになり、この結果、ローン、貯蓄、保険、送金、決済における金融包摂が劇的に進展しました。
この波は、現在、先進諸国における格差・貧困問題にも積極的に導入されています。たとえば、米国でJPモーガン・チェイスの支援で設立されたFinancial Solutions Labは、全米のFinTechベンチャーからアイディアを募り、アメリカ人が直面する金融排除の解消と金融面での健全性向上に役立つ技術開発に取り組んでいます。ラボでは、現在、9つのプロジェクトが始まっています。
たとえば、Digitは、ユーザーの支払い実績を行動経済学的に分析し、無理のない範囲で少額貯蓄を自動的に行ってくれます。Evenは、パートタイムや日雇い労働者の不安定な収入と毎月の支払いを分析し、最適の収支モデルを提案します。lendstreetは、債務破綻に陥った人達の債務を一時的に肩代わりし、収入の範囲内で長期的に返済することを肩代わりします。Propelは、食料切符などの公的扶助に伴う面倒な手続きをオンライン上でシンプルに済ませるよう支援します。
こうしたイノベーションを支えるのは、行動経済学やファイナンシャル・ダイアリーによる低所得者層の経済行動の分析と、このソリューションを可能にしたスマートフォンの普及です。さらに、FinTechのプラットフォームが整備されてきたことで、送金、決済などのコストが劇的に下がったことも見逃せないでしょう。このように、FinTechは、格差・貧困問題を改善する大きな可能性を秘めているのです。
日本の金融機関やベンチャーも、FinTechを単なるビジネス・チャンスと考えず、金融機関がCSVを通じて貧困・格差に取り組むことが出来るチャンスと捉えて、積極的にこうした試みに参加してほしいですね。結局、これは金融マーケットを拡大することでもあるのですから。