以前にこの情報ボックスでご紹介した「フィランソロピー・社会的経済青書2016」で、2015年度の最新流行語の一つとして注目を集めているとされた「プラットフォーム型協同組合主義(Platform Cooperativism)」。この全貌を明らかにする報告書が公開されましたのでご紹介しておきます。
「プラットフォーム型協同組合主義」とは、一言で言えば、「共有経済を協同組合を通じて実現しよう」という考え方です。その背景には、「共有経済」がもたらす弊害が深刻化するのではないか、という懸念があります。
たとえば、カーシェアリングの先駆的存在であるUbrについて考えてみましょう。これは、自分があいている時間に、客を拾って報酬をもらうというシステムです。これは、確かに乗客にとっても車の所有者にとっても便利なシステムです。
しかし、Uberの導入は、タクシーの運転手にとっては脅威です。明らかにUberの方が安いため、タクシーの運転手は競争のために低賃金労働にさらされます。しかし、コスト面で勝ち目はないから、客は次第にUberの方に流れていくでしょう。では、その次に何が来るのか?タクシーの運転手は、Uberへの乗り換えを余儀なくされるかもしれません。しかし、それは、さらに過酷な低賃金労働への転落をもたらすだけです。
このように、テクノロジー・プラットフォーム活用型の共有経済は、既存のシステムを破壊し、低賃金労働をさらに進める恐れがあります。この代表例が、アマゾンですね。アマゾンは便利ですが、小売業を破壊します。さらに、アマゾンで働く人達は、配達効率を高めるために、過酷な時間管理と低賃金労働を強いられています。低価格と便利さの背景には、低賃金労働の再生産があります。そして、現在、テクノロジー・プラットフォーム活用型の共有経済にもっとも積極的な関心を示しているのがアマゾンなのです。
「プラットフォーム型協同組合主義」は、このような懸念に基づいて提唱されたもので、低賃金労働の再生産を打破するために、労働者が協同組合型の組織を結成し、これを通じて持続可能な形でプラットフォーム型共有経済を実現しようという試みです。これが難しい場合には、市町村などの自治体が代わりにプラットフォームの担い手になることも可能です。なぜ、このような組織が必要かというと、テクノロジー・プラットフォームを開発するのには資金が必要で、この部分を大資本に委ねると、独占と低賃金労働が進むため、これを協同組合という形で制限しようという発想です。
報告書では、プラットフォーム型協同組合として、以下の類型が挙げられています。
・協同所有型オンライン職業紹介システム
・市立プラットフォーム型協同組合
・組合支援労働プラットフォーム
・プロトコール設定型プラットフォーム
既に、世界各地で、プラットフォーム型協同組合の試みが動き始めており、昨年11月には、国際会議も開催されたとのこと。日本の労働組合や生協、さらに中小企業組合などにも関わりのある動きとして、今後の展開が注目されます。