言うまでもなく、クラウドファンディングはソーシャル・セクター団体にとって強力な資金調達ツールであり、その重要性はますます高まりつつあります。
しかし、クラウドファンディングを運営するには、オンラインプラットフォームの開設などの初期資金や小まめな運営・管理、大規模なマーケティングなどのための運営資金が必要です。このため、クラウドファンディングの多くは株式会社の形態を取ります。株式会社の方が資金調達に便利ですし、非営利法人の持つ様々な制約を離れてスピード感のある経営が可能となるからです。日本でも、READYFOR、CAMPFIRE、FAAVOなどの主要プラットフォームは、すべて株式会社です。これが現在のクラウドファンディング業界における「主流ビジネスモデル」です。
では、このような営利型に代わる非営利型のモデルはもう生き残れないのでしょうか。この問題について、NYで立ち上がり、近年、米国各地に展開しつつあるiobyという非営利プラットフォームが興味深いモデルを提供しています。
iobyは、2010年に設立された非営利団体です。その基本的な理念は「クラウド・リソーシング」。これは、「クラウドファンディング」と「リソース・オーガナイジング」を組み合わせた独自のコンセプトです。言い換えれば、クラウドファンディングの手法を活用してコミュニティのリソースを動員していこうという考え方です。
現実に、iobyはターゲットをコミュニティ活動に重点化します。支援の対象となるプロジェクトは、一般的なクラウドファンディングのコンセプトから見れば、地味なものばかり。たとえば、貧困コミュニティの子供達のためのサマーキャンプの実施や放課後スクールの開設、空き地を活用した公園作り。また、コミュニティをベースに活動しているアーチストのパブリックアートや壁画作成、コミュニティのオーラルヒストリー記録プロジェクトなどです。もちろん、予算規模も数十万円という小規模が中心です。
iobyのユニークな点は、こうした支援活動をする際に、ファンドレイジングのトレーニングを提供する点。コミュニティで活動していて、アイディアはあるけれど資金もなければ資金調達のノウハウもないという人達に、iobyプラットフォームを活用した資金調達のトレーニングを行い、いわば伴走型でiobyを通じた資金調達を支援していきます。別の言い方をすれば、iobyはコミュニティ・オーガナイジングをクラウドファンディング・プラットフォームを通じて行っているとも言えるでしょう。
iobyのこのモデル、ニューヨークで成功を収め、昨年、ワシントンDCとピッツバーグに拠点を開設。さらにデトロイトとクリーブランドにもオフィスを設置する予定とのこと。さらに拡大を続けていきそうです。
iobyのモデルは、営利株式会社型モデルのクラウドファンディングから見れば、非効率以外の何者でもありません。営利型クラウドファンディングのビジネスモデルは、管理費収入です。収益率を上げるためには、1件あたりの資金調達額が大きいプロジェクトを出来るだけ多く集める必要があります。さらに、話題性を高めるためにマーケティングに資金を投入し、経費削減のためにコンサルティングなどの人件費は最小限に抑えるべきでしょう。この点から見ると、各地に拠点を展開してさらにトレーニングを行うなど、コスト面から考えれば割に合いません。この意味で、iobyのモデルは「非営利」であると同時に「反営利」なのです。
しかし、iobyはこの点に自分たちの中核的なミッションを見いだします。営利型クラウドファンディングの競争に入ってしまえば、そこにあるのは資本力を背景にした拡大戦略しかありません。ネット上で競争を続ける限り、徐々に大資本に淘汰されていくでしょう。しかし、コミュニティをベースにする限り、収益率は低くても持続可能です。何よりも、支援対象となる個人やコミュニティ団体とのネットワークを拡大していくことで、さらなるビジネス・チャンスが生まれてきます。また、言うまでもなく、「非営利」を持っている限り、財団、行政、個人からの寄付や補助金も獲得できますし、コミュニティからの信頼も得ることが出来ます。
iobyの創設者エリン・バーンズは、あるインタビューで次のように語っています。「私たちにとって、非営利になるという考えは自明のことのように見えます。なぜなら、非営利こそが今まで最も実績を培ってきた形態であり、また私たちのミッション枠組みに最も適した形態だからです。」「本当に素晴らしいことは、私たち自身が支援プロジェクトの最初から最後まで実際に見ながら投資出来ると言うことです。」
営利か非営利か、それは簡単には答えの見つからない問題です。しかし、iobyは迷うことなく「非営利」を選択し、新たなモデルを提示しました。彼らのモデルが、今後、競争が激化しつつあるクラウドファンディング業界の中でどのように生き残っていくのか、それは非営利モデルの可能性にもつながっていきそうです。