ハードウェア・パイオニア育成戦略

社会的インパクト投資の鍵を握るのは、革新的な技術を発掘し、このスケールアップを通じてソーシャルイノベーションを達成することです。FSGが新たに発表した報告書「ハードウェア・パイオニア:テクノロジー起業家の潜在的インパクトの活用」は、この実現に向けた処方箋を説得力ある形で提示しており、参考になります。

社会的インパクト投資は、安価で革新的な技術や製品の普及を通じて開発途上国の人々の暮らしを変えることができる起業家をターゲットにします。これまで、社会的インパクト投資資金を通じて、僻地農村でも利用可能な小規模太陽光発電システムから、マラリア蚊避け薬品付の蚊帳、太陽光による自家発電が可能な小規模灌漑システムまで、様々なテクノロジーが開発され、人々の生活を改善してきました。

しかし、この分野が拡大する上で二つの大きな課題があります。

一つは「パイオニア・ギャップ」です。通常、革新的なテクノロジーは、開発、商品化、普及に多大なコストと手間がかかりますが、一度普及すると、比較的安価に模倣することが出来ます。このため、投資家は、パイオニアに投資するよりも、ある程度普及して成長性が見込める開発済みのテクノロジーへの投資を優先させます。これは、投資収益の観点からは極めて合理的な行動ですが、結果的に、新たなテクノロジーの開発に投資資金が回らなくなります。これが「パイオニア・ギャップ」です。

もう一つはマーケット・インフラの不足です。開発途上国の場合、製品への需要が小さいだけでなく、流通網は整備されておらず、マーケティングのための基盤も脆弱です。先進国での商品化に比べ、開発途上国での商品化は、このような困難な状況に直面するため、せっかくの技術もなかなか普及しません。

こうした問題に対応するためにはどうすれば良いのでしょうか。報告書は以下の4つの段階に応じたきめ細かい支援を提案します。

1)仕掛けづくり(Spark)
⇒どのようなテクノロジーが求められているのかをリストアップし、このソリューションを公募して話題性を高め、さらに大学・研究機関を巻き込んで若い人材を育てていく

2)育成(Nurture)
⇒技術開発と商品化に向けたインキュベーター施設を整備し、「忍耐強い資本(Patient Capital)」と伴走型支援を通じてテクノロジー起業家を育成し、さらに大学や研究機関の施設を開放することで開発環境を整備する

3)スケールアップ(Scale Up)
⇒開発最終段階における成長と展開を支援するためにマーケティングや販売の専門家による支援を行うと共に、この最終段階に必要な資金を準株式などのデット・ファイナンスを通じて提供する

4)増幅(Amplify)
⇒確立した技術の普及を支援するため、開発者の著作権保護に配慮しつつ、技術移転を支援し、他国・地域で新たな普及に乗り出そうとする起業家や技術者を養成する

報告書では、この各段階において、インパクト投資家、財団、非営利団体、企業などに期待される役割が細かくリストアップされていて役に立ちます。また、この各段階において必要とされる資金需要に応えるため、「ベンチャー・デット」や「準株式」などの新たな資金提供手法の導入を提案していることも注目されます。

この分野で先駆的な役割を果たしてきた「アキュメン・ファンド」が設立されたのが2000年。それから10数年が経過し、この分野も成熟してきました。今回の報告書を契機に、開発援助機関や財団、企業なども巻き込んだ、より包括的なエコシステムの整備が期待できます。それはまた、インパクト投資市場のさらなる発展にもつながりそうです。

http://fsg.org/publications/hardware-pioneers…

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