難民問題に社会的インパクト投資で取り組む

シリア内戦を機に激化した中東・アフリカから欧州への膨大な難民の流入が、欧州共同体の存続を揺るがす事態に発展しています。オーストリアやフランスにおける反移民・難民を打ち出した極右政党の台頭も難民問題と無関係ではありません。事態は深刻です。

この問題に関し、英国のビッグ・ソサエティ・キャピタルが、最近、ユニークな論考を発表しました。タイトルは「社会的統合への投資:社会的投資を難民・亡命者の統合促進にいかに活用するか」です。

論考は、現在、英国には17万人もの難民・亡命申請者が存在し、今後も増大する可能性があること、彼らは住居や雇用、メンタルなど様々な問題を抱えていることを指摘し、この解決に向けて、社会的投資の活用を提案しています。具体的には、以下の分野です。

■難民向け低価格住居の提供
■難民の起業支援
■雇用までのつなぎ資金や職業訓練資金の提供
■難民申請に関する法的支援のための資金提供

さらに、提言は、社会的インパクト債を活用した就業支援や、コミュニティの伴走型ファンドレイジング支援の可能性についても言及しています。

難民は、欧州に到着した時点では、ほとんど財産も家財もありません。しかし、彼らの多くは、本国でプロフェッショナルとして働いてきた人達で能力もモチベーションも高い人達です。だからこそ、リスクを冒して本国から逃れて欧州に到着できたとも言えます。

彼らを、単なる「社会的コスト」として排斥するのは簡単です。しかし、それだけでは問題は解決しません。むしろ、彼らを、将来、仕事や納税を通じて貢献してくれる「社会的価値」として社会的に統合していくというウィン・ウィンの関係を築くことが求められます。実際、既に同様の取り組みを進めているカナダでは、社会的投資を活用した難民向けローン返済率は100%になっているとのことです。

社会的投資が発展するかどうかは、結局、その社会がいかに他者や少数者に対して開かれているか、にかかってきます。言い換えれば、彼らを「社会的コスト」として「排斥」し、同質集団の利益を守るのか、それとも彼らに「社会的価値」を見いだして「包摂」し、多様な価値観を許容する開かれた社会を構築していくのか、という選択です。今回の報告書は、「社会的投資」が、後者にコミットするための有力なツールであることを改めて教えてくれます。もちろん、これは、日本にも当てはまると思います。

http://www.bigsocietycapital.com/…/Social%20Investment%20In…

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