社会的インパクト債と「エビデンス」

「社会的インパクト債」の本質を理解するためには、これを「エビデンス重視政策(Evidence-based Policy)」の中で発展してきた「成果連動型助成(Pay by Results Grant)」におけるパブリック・プライベート・パートナーシップの一手法として捉える必要があります。社会的インパクト債は、政府の財政支出削減のための魔法のツールなどでは決してありません。

米国では、「社会的インパクト債」の発展に伴い、「エビデンス重視政策」が改めて議論の俎上に上がっています。先日もお伝えしたように、米国議会では超党派で推進法が成立しました。今後、米国の公共政策において「エビデンス重視政策」が加速することが予想されます。

こうした中、社会的インパクト債の推進団体の一つ、サード・セクター・キャピタルが、オレゴンで「データ&エビデンス・ワークショップ」を開催しました。政府関係者や専門家が集まり、社会的インパクト債の組成にあたり、データやエビデンスをどのように取り扱うかが議論されたのですが、非常に面白い論点が提示されているので紹介しておきます。

社会的インパクト債の組成にあたっては、政府やサービス・プロバイダーの提供するデータが重要です。これは、成果測定の指標となるだけでなく、投資リターン決定の基準ともなるからです。この点について、ワークショップでは以下の点が指摘されました。

1.データ収集の過程を急いではならない。
⇒特にソーシャル・サービス分野の場合、データ収集対象機関との信頼関係構築なしに良質なデータは入手できない。

2.政府データの特性を理解すべき
⇒政府のデータは、コンプライアンスや報告を主たる目的としており、サービス対象者のためでは必ずしもない。このため、政府データ利用の際には、十分にデータ特性を確認すべき。

3.認知ギャップを乗り越えるべき
⇒政府データに基づいて予想されるリスクとアウトカムをマトリックス化し、これをデータ保有機関と直接協議して洗練させるべき。

4.データ請求については戦略的になるべき
⇒より多くのデータを請求すれば、それだけプロセスは長く複雑になる。必要なデータを可能な限り特定し、出来るだけプロセスの迅速化を図るべき。

社会的インパクト債が対象とする社会分野は、再犯予防、非行予防、10代の妊娠予防、ホームレスの社会復帰促進・・・と、非常に微妙な領域を扱います。これらの領域における「データ」とは、深い問題を抱えた人達のプライバシーと心理的葛藤を基礎としたものです。

調査者と調査対象者の信頼関係がなければ、もちろん適切なデータは入手できませんし、このような不適切なデータに基づくプログラムは有害なものになる恐れもあります。特に、政府機関が機械的に収集したデータを基礎とすると、現場に蓄積されたノウハウが反映されない可能性も排除できません。

今回のワークショップは、「エビデンス」の名の下に「科学的」「客観的」を標榜するプログラムの土台の危うさを改めて再確認し、これを妥当なものとするためにどのような配慮が必要かを明確にした点で、非常に意味のあるものだと思います。

http://www.thirdsectorcap.org/…/catalyst-for-having-the-da…/

Share MeFacebooktwitterlinkedinmailby feather