日本でもデトロイト市の破産が大きく報じられましたが、米国フィランソロピー・セクターが早速、デトロイト支援に乗り出しました。プロジェクトの名前は、ウッドワード・コリドー投資基金。デトロイトで長年にわたって支援活動を行ってきたクレスゲ財団が核となり、NCBキャピタル・インパクト、MetLife社会的投資部門、PNCバンク、プルデンシャル、カルバート財団、Living Citiesなど、助成財団、金融機関、NPOなどがそれぞれ資金を拠出して、総額3,025万ドルの基金を通じてウッドワード・コリドーの再開発プロジェクトを支援すると言う壮大なものです。
ウッドワード・コリドーは、デトロイト市内の中心部に位置しています。基金が支援対象とするのは、複合利用、複合収入、往来志向を原則とし、デトロイト市の中核に再び人が集まり、多様な店舗や施設が展開し、活気に満ちて、人が歩ける空間を作っていこうという開発プロジェクトです。これによって、コリドーに再び人が戻ってくるようになれば、経済が活性化され、更なる投資が戻ってくることが期待されます。それはまた、コリドー周辺の再開発にもつながっていくでしょう。このプロジェクトのポイントは、非営利団体の資金を入れることで、アートセンターなどの非営利開発への資金提供にも柔軟に対応できることと、大規模商業開発ではなくコミュニティの身の丈のサイズにあった持続可能な開発を目指していることです。
このような基金が可能になった背景には、もちろん、クレスゲ財団の長年にわたる活動の成果がありますが、見逃せないのは、Living Citiesという団体の支援です。Living Citiesというのは、フォード財団やロックフェラー財団などの米国の主要財団がコミュニティ支援を目的に設立した組織で、独自のファンドを使ってコミュニティ開発支援を行ってきました。クレスゲ財団のデトロイト支援プロジェクトにも資金を提供してきており、その調査とフィジビリティ・スタディの成果を踏まえて実現したのが、今回のプロジェクトです。Living Citiesの支援メンバーにはMetLifeやプルデンシャルも入っており、このつながりでこれらの金融機関が基金設立に参加することになりました。また、カルヴァート財団はコミュニティ支援で長い実績を持つ財団です。このような団体が基金設立に名を連ねている点からも、このプロジェクトが、米国フィランソロピー・セクターの総力を挙げた支援だということを実感できます。
デトロイト市の破綻は、グローバル企業に依存した経済開発モデルがいかに脆弱なものであるかを明らかにしました。これから市の再建が始まりますが、市職員の雇用や退職職員の年金削減、行政サービスの低下や福祉サービスのカットなど、普通の人々に負担を強いる施策が取られる可能性は十二分にあります。同時に、安くなった不動産を投機目的で買いあさる投資家も現れるでしょう。市は、収入拡大のために市の保有資産を企業に有利な条件で提供してまた大企業誘致に乗り出すかも知れません。しかし、こうした施策が持続可能かどうか、また住民・コミュニティの福祉に資するかどうかを慎重に検討する必要があります。過去の過ちを繰り返さず、真に持続可能な再建・発展を目指した取り組みを行うためには、今回のクレスゲ財団の試みの方がより有効ではないでしょうか。