ジョンズ・ホプキンス大学市民社会研究所の同僚で、社会的インパクト投資の専門コンサルティング会社をニューヨークで立ち上げたウィリアム・バーカートが、クロニクル・オブ・フィランソロピー誌に「民間インパクト投資が社会変革を行っているかどうかを証明する必要がある」というタイトルの論説を寄稿しました。なかなか説得力があるので、紹介しておきます。
日本でも社会的インパクト投資が認知度を高めつつあります。社会的インパクト投資は、もちろん、経済的なリターンと社会的なリターンの双方を追求する投資で、社会的なリターンの測定手法もSROIや費用便益分析、GIIRSなど、様々な手法が提案されています。ただ、こうした評価手法は、社会的インパクトのみを対象としており、投資がもたらすネガティブな波及効果や副次効果などには必ずしも目が行っていません。
この結果、どういうことが起きるかというと、たとえば、インパクト投資のファンドマネージャーが南アフリカの繊維輸入産業に投資をして社会的インパクトがあったと主張しているけれども、実際にはこの投資の結果、大量のアジア製繊維製品が流入して地元産業に打撃を与え、さらに環境負荷も高まったという事例が発生しています。あるいは、有名な例ですが、ビル・ゲイツ財団が、ナイジェリアの感染病予防に資金を提供しながら、財団資産の運用先として、ナイジェリアの石油開発に投資してナイジェリアの環境汚染と生活環境の劣化をもたらしているロイヤル・ダッチ・シェルやエクソン・モバイルを使っているとして批判された例もあります。
社会的インパクト投資は、社会的プロジェクトにスケールをもたらす上で有効な資金提供手法ですが、マルチ・ステイク・ホルダー型の評価をきちんと導入しないと、社会全体で見たときに投資がもたらす社会的コストが逆に拡大してしまうと言うパラドックスがここにはあります。そのために、ウィリアムが提唱するのが、社会的インパクト投資において、民間投資団体が非営利組織と共同し、非営利が培ってきたマルチ・ステイク・ホルダー型の評価を積極的に導入すべきというものです。今後、日本でも、こうした議論が活性化することが望まれます。
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