社会的インパクト投資に対する批判の一つに、インパクト投資家が経済的利益を追求する結果として、投資先団体の社会的ミッションが損なわれ、利潤追求に走るのではないか、というものがあります。ペンシルヴァニア大学ウォートン・ビジネス・スクールの社会的インパクトイニシアチブが発表した「大いなる期待:インパクト投資におけるミッション保持とファイナンシャル・パフォーマンス」という報告書が、この議論に実証研究を通じて取り組んでいて興味深いので紹介しておきます。
調査は、世界各国の53のインパクト投資に関するプライベート・エクイティ・ファンドを対象に行われました。その結果は、投資家がファンドと締結する契約ではほぼすべてにおいて、「インパクト実現」が条項として組み込まれており、この結果、ファンド・マネージャーは投資の決定において、インパクト志向を法的に義務づけられていることが明らかになりました。
さらに、投資が終了した後にも、投資先団体が社会的ミッションを維持するかどうかについても、ほぼすべての投資家が楽観的に考えていることが明らかになりました。理由は,投資先の団体が「社会・環境インパクトをビジネスモデルに組み込んでいるから」というものです。
こうした事実は、通説として流布している「社会的ミッションが損なわれる」という議論に対する大きな反証となります。
では、このようにインパクトを追求するファンドは、金銭的なリターンを犠牲にしているのでしょうか。この点について、考えるために、調査は、特に市場レートのリターンを追求するファンドのファイナンシャル・パフォーマンスを調査しています。この結果は、通常の市場レートと比較しても彼らのリターン率はほぼ遜色がないと言うことが明らかになりました。この理由として、報告書は、市場レートのリターンを追求するインパクト投資ファンドは、デュー・ディリジェンスを厳格に行うため、インパクト志向と金銭的リターンの両立が可能だろうと推測しています。
さらに、報告書は、今後の課題として、このように短期的なリターンにおいてはインパクト投資と通常の投資に違いが無いとしても、たとえば長期的なインパクトとの関係や、投資終了後のインパクトはどうなのかもフォローする必要があると提案しています。
今回の報告書は、世界トップクラスのビジネススクールであり,特にファイナンス系では他の追随を許さないウォートンの報告書だけに説得力があります。このような実証的な分析の積み重ねが、社会的インパクト投資の世界に対する信頼を高め、よりマーケットの規模を大きくしていくのでしょうね。今後も、ウォートンの社会的インパクトイニシアチブの動向には注目していきたいと思います。