大統領選を迎える米国では、社会保障拡大や公立大学無料化を訴えるサンダース候補の台頭に象徴されるように、格差・貧困の問題が大きなイシューになりつつあります。過激な発言ばかりが注目を集めるトランプ候補も、実は「国防費を削って社会保障費に充てろ」という共和党候補とは思えないまっとうな議論を展開していて、あれだけの支持を集める一因となっています。その意味で、格差・貧困問題は超党派の支持を集めつつあると言えます。
そんな中、オバマ大統領が最後の年の予算案を議会に提出し、ルー財務長官が上院歳出小委員会で証言しました。これを見ると、現在のオバマ政権の格差・貧困や社会政策に関する重点が見えてきます。主なポイントは以下の通りです。
1.成功報酬債(PFS)の促進のための基金設置
⇒米国版社会的インパクト債であるPFSを推進するため、3億ドルのPFS促進基金を設置。これは、主に州政府や地方政府がPFSの案件公募を行う際の準備や能力強化を支援する予定です。
2.コミュニティ開発金融機関(CDFI)基金の強化
⇒米国における貧困対策の柱の一つは、貧困コミュニティに対する投融資をマイクロファイナンス手法で行うコミュニティ開発金融機関の存在です。この機能をさらに強化するため、1000万ドルの貧困層向け少額ローンプログラムの設置や、コミュニティ開発金融機関債の税減免範囲の拡大などを行います。
3.金融包摂の推進
⇒金融包摂をさらに推進するため、1億ドルの基金を設置し、低所得勤労者向けに、いざという時のための貯蓄形成を支援します。
資本主義を具現する大国であり、競争原理が社会の隅々にまで行き渡っていると思われている米国ですが、実は、着々と社会的インパクト債の体制整備を進めて財政支出の効率性と透明性を高めています。また、社会保障分野では、CDFIや金融包摂を活用して、低所得者に資金面でのセイフティネットを提供し、さらに意欲のある人達が起業する際には、資金を低利で貸し出すことでこれを後押しする、と言う分厚い支援を行っています。
今回ご紹介したのは、連邦政府の施策ですが、これ以外にも、民間非営利セクターが様々な資金提供や金融包摂プログラムを展開していますし、また営利の金融機関も、企業の社会貢献活動や企業財団を活用し、FinTechを駆使して金融包摂を進めています。米国は、決して、市場原理一辺倒の国ではなく、社会政策の分野でもイノベーションを推進している国なのです。
日本でも格差・貧困は重要な課題です。公的扶助だけでなく、このような金融包摂の手法やSIBのような新たな資金提供手法を積極的に検討して行く必要があるかと思います。
https://www.treasury.gov/…/press-releases/Pages/jjl0375.aspx