90年代から、社会的インパクト投資を通じて都市の格差・貧困問題に取り組んできたリビング・シティズが、最近、3100万ドル相当のブレンディド・キャピタル・ファンドを設立しました。社会的インパクト投資を通じた貧困・格差問題への新たなアプローチとして注目されます。
米国では、長い間、都市の貧困が大きな問題となってきました。その代表例がデトロイト市です。市の中心部が貧困層居住地となり、その結果、地価が下がって富裕層が郊外に移転し、税収が減少するという悪循環に陥り、最終的には財政破綻に至りました。こうした問題に取り組むには、慈善寄付や財団の助成だけでなく、投資を通じて都市を再開発し、人の流れを呼び込むことで経済の好循環を実現する必要があります。この鍵を握るのが、社会的インパクト投資であり、リビング・シティズは90年代から、先駆的な取り組みを果たしてきました。
リビング・シティズとは、主要財団と金融機関によるコンソーシアムです。フォード財団、クレスゲ財団、マッカーサー財団などの大型財団と、メットライフ、ドイツ銀行、プルデンシャル・ファイナンシャルなどの主要金融機関がメンバーに入っています。リビング・シティズは、資金仲介団体として、プロジェクトを形成し、これに対する投資枠組みを組成します。この枠組みでは、基本的に、ストラクチャード・ファイナンスの劣後部分を財団が引き受けてリスクをコントロールし、これに基づいて金融機関が優先部分に資金を提供するという形式を取ります。この結果、従来、財団のグラントだけでは不可能だった大規模資金によるプロジェクト形成が可能となる、というのがリビング・シティズのユニークな特徴です。
今回、リビング・シティズが立ち上げた新たな基金が資金提供する主なプロジェクトは以下の通りです。
■デンバーで新規に開始されたホームレス支援住居サービスへの社会的インパクト債
■デトロイト周辺の貧困地域における起業家や中小企業へのローン
■教育、治安、環境に焦点を当てた社会的企業へのエクイティ投資
■シアトルの低所得者向け住居開発のための初期ファイナンス
■都市問題解決に取り組む初期段階の社会的起業家への資本支援
社会的インパクト投資も投資である以上、当然、投資家はリスクを見極め、経済的リターンを求めます。社会的ミッションだけで投資家を説得することは困難です。特に、投資対象が、貧困地域の場合、投資家がリスクを考慮して投資をためらうことは十分にあり得ます。そこに、従来からグラントを通じて支援を行ってきた財団が関与し、デューディリジェンスに関わると共に、リスク資金を提供すれば、投資家も投資しやすくなります。リビング・シティズは、まさにこのための枠組みだと言えるでしょう。
日本でも、日銀の異次元緩和とマイナス金利で資金がだぶついている一方で、地方や中小企業は資金難に苦しんでいます。貧困家庭を支援するマイクロファイナンスもなかなか発展しません。これは投資リスクをコントロールするリビング・シティズのような枠組みがないためです。日本の場合、米国のような大型財団はありませんので、政府金融機関や公的ファンドなどが代替する枠組みを考える必要がありますが、いずれにせよ、リビング・シティズの取り組み、今後、日本における社会的インパクト投資の発展を考える上で貴重な教訓を提示してくれていると思います。