近年のアメリカの社会政策は、「エビデンス重視」抜きに考えることは出来ません。議会ではエビデンス重視政策を推進する委員会の設立が超党派で可決され、助成財団の多くもエビデンス重視を掲げた支援を開始しています。言うまでもなく、社会的インパクト債はエビデンスを基礎とした成果連動型助成の一形態です。
しかし、「エビデンス重視」政策に対する根強い反発があるのも事実です。支援を受けるNPOやコミュニティから見れば、「エビデンス重視」の名の下に、膨大なペーパーワークを課され、さらに現場の実情と遊離した成果指標に基づいて事業が評価されることに対して批判の声が上がっています。
とは言え、エビデンス重視政策は、プログラムの改善を図り、インパクトを高めるためには不可欠の手法でもあります。また、結果的に政策の透明性を高め、成果の共有を促進します。では、どうすれば、エビデンス重視政策を実効性のある形で進めることが出来るのでしょうか。
スタンフォード・ソーシャル・イノベーション・レビューに掲載された記事は、「コミュニティ参加」を促進することでこの問題の解決を提案しています。この提案、エビデンス重視が陥りがちな様々な問題に的確に対応していて説得力があります。論考が提案する手法は以下のものです。
1.コミュニティのオーナーシップを組織する
⇒プログラム形成の初期段階からコミュニティの利害関係者を巻き込むことで、成果指標となるデータの選択に共通理解を形成。これにより、「押しつけ」とならない政策を策定
2.複雑さを許容する
⇒集合的インパクトの手法を最大限に活用し、一つの成果指標だけに依存するのではなく、成果指標を多様化し、課題解決の取り組みにおける複雑さを許容する。これにより、エビデンス重視政策が「一面的」とならないように配慮。
3.地元機関との協働
⇒エビデンス重視政策を実施できる全国ネットの巨大組織だけに依存せず、地元の実施機関や財団との協働を可能な限り確保する。これにより、エビデンス重視政策が終了してローカライズしたときの持続可能性を確保する。
4.公平性原則(Equity Lens)の適用
⇒プログラム運営の意思決定機関に、そのプログラムの支援対象となる貧困層や社会的排除層の声を反映させるメカニズムを構築する。これにより、エビデンス政策が無意識的に排除してしまう層を可能な限り包摂できるようになる。
論考は、さらにパートナーとなりうる米国の主要な中間支援組織をリストアップして、政府機関の担当者が実際にこの手法を導入できるよう支援しています。
エビデンス重視政策は、米国の社会政策を変革する可能性がある重要な潮流です。今回の論考は、その価値を否定せず、むしろより実効性のある形にするための運用上の手法を提案していて好感が持てます。集合的インパクトの手法が無理なくエビデンス重視政策につながっていくところに、米国における社会政策を巡る議論の成熟を感じさせます。今後、日本の社会政策を考える際にも参考になりそうです。論考は以下のサイトで読むことが出来ます。
http://ssir.org/…/community_engagement_matters_now_more_tha…