先日お伝えしたユタ州の社会的インパクト債の疑惑に関係し、社会的インパクト投資の評価について参考になる記事がありますので共有しておきます。英国ビッグ・ソサエティ・キャピタルの戦略・マーケティング部長の寄稿で、タイトルは「王様は裸か?ー社会的インパクト評価のスタンダード」です。
記事の主張は単純です。社会的インパクト債を含めて社会的インパクト投資は近年、大きく発展してきていますが、実のところ、まだ社会的インパクト評価のスタンダードについてのコンセンサスは出来ていません。現状は、
1)我々は異なるインパクト投資分野を超えて成果(達成目標)を比較することは出来ないし、
2)我々は、ある個人やコミュニティがどれだけ「脆弱」で「剥奪されている」か(受益者層)を決定する適切なツールも持ち合わせていないし、
3)主張されているインパクトの強固さ(インパクトの強度)がどの程度かについての関心も十分ではない、
ということです。
では、どうすれば良いのでしょうか。もちろん、GIINが開発しているIRISやビッグ・ソサエティ・キャピタルのアウトカム・マトリックスのようなスタンダードの指標を確立することが急務です。ただ、上記の第二のポイントである「脆弱さ」を社会的なコンセンサスを持ってスタンダード化するという点も忘れてはなりません。さらに、インパクトの強度については、インパクト評価の透明性をいかに担保するかという問題から考える必要があります。最後の点については、NESTAが開発した「エビデンスのスタンダード」という考え方が一つの可能性を提示しています。
日本でも、社会的インパクト投資や社会的インパクト債に対する関心が高まっています。しかし、New Public Managementを80年代から導入して行政評価の透明性や客観性の向上に努めてきた英国ですら、上記のような議論をしているのが現状です。いまだ、行政レベルでもまともな成果評価が行われておらず、補助金の費用対効果も満足にデータが無い日本の現状において、社会的インパクト評価を前提としたシステムを構築するのは、下手をすると、新たな「ばらまき」につながってしまいます。この記事が指摘するように、社会的インパクト評価を巡る丁寧な検討過程が求められます。