社会的インパクト債が発展する米国において、また一つ、この普及を強力に後押しする法案が可決されました。「エビデンスに基づく政策策定委員会法」です。3月16日に上院で、翌3月17日に下院でそれぞれ可決され、オバマ大統領も署名する予定です。民主党と共和党の党派対立で膠着状態にある米国議会では珍しく、超党派で可決されました。
法律は、15名の委員からなる「エビデンスに基づく政策策定委員会」の設置を定めています。委員会は、設立後、速やかに連邦政府のプログラムと税控除プログラムを横断的に調査し、15ヶ月間の間に連邦政府の様々なプログラムを「エビデンスに基づく」政策に転換させる政策提言を取りまとめます。さらに、政策推進のための「情報クリアリング・ハウス」の設立や、連邦政府の事業計画に成果指標、ランダム制御試験、インパクト分析の手法を取り入れるよう提言の取りまとめも行う予定です。
要するに、この委員会は、連邦政府の膨大なプログラムを「エビデンスに基づく政策」という観点からレビュー・再編し、その評価・モニタリング手法を開発するという大きな役割を担うと言うことです。今後、15ヶ月間の作業により提案が策定されれば、「エビデンスに基づく政策」が連邦政府の様々なプログラムに反映されることになるでしょう。これは、社会的インパクト債を含めた、成果連動型補助金(PbR: Payment by Result)の手法が、米国連邦政府プログラムの主流になることを意味しています。おそらく、各省庁は、提言が策定されるのを見越して、今後、社会的インパクト債などの手法の導入を加速すると思われます。
これにより、米国の公共政策は大きく転換することが予想されます。その社会的影響についても、今後、広範にわたる議論が展開されることになるでしょう。連邦政府プログラムの透明性が向上し、成果の出ないプログラムが切り捨てられることで行政の効率性は向上します。社会的インパクト債を通じた民間資金の導入も進むでしょう。他方、成果連動型補助金がもたらす「いいとこ取り」や「ミッション漂流」、効率化に名を借りた行政サービスの縮小などの弊害も表面化することでしょう。
今回の法案は、米国の公共政策に革命をもたらしうるものです。これは、中長期的には日本の公共政策にも影響を及ぼす可能性があります。専門家の議論、市民社会側の反応等、注意深くウォッチしていく必要がありそうです。