先日、ご紹介したユタ州の社会的インパクト債の評価を巡っても、引き続き、米国内では議論が続いています。どういう議論か簡単にご紹介しておきますと、争点となっているのは、ユタ州の社会的インパクト債事業です。幼児教育を通じて特別学校への進学者数を減らせば、それに応じてリターンがあるというプログラムが「1年目で成果を上げ、ゴールドマンサックスなどの投資家にリターンが出た」という記事に対して、専門家から、「成功したという成果は、通常ではあり得ないもので疑わしい」という批判が出ました。これをきっかけに、社会的インパクト債とその手法を巡って議論が続いているのです。 続きを読む
Share Meby「イノベーション・インパクト」カテゴリーアーカイブ
Lean Dataのさらなる展開
ザッカーバーグ氏のフィランソロピーモデル(続々編)
Lean Data:アキュメン・ファンドが提案するインパクト評価のオルターナティブ
インパクト・インフラストラクチャーに向けて:CIIXの挑戦
低所得者向け医療福祉サービスを対象としたインパクト投資基金
ENGAGE:ネットワーク時代のファンダー向け情報リソース
米国議会で進む「成功報酬債」関連法制化の動き
社会的インパクト債構築のための新たなローン・プログラム
社会的企業のスケールアップ戦略の現状と課題
社会的企業はビジネス・モデルを使って社会的課題の解決を目指します。営利であれ非営利であれ、ビジネス・モデルを使う以上、経営の安定のためにスケールアップが必要となります。なぜなら、スケールアップを通じてマーケットを拡大し、収入基盤を安定させることによって不足の事態から生じるリスクへの抵抗力が増すからです。
ドイツの財団が欧州主要諸国の社会企業を対象に実施した「欧州における社会的インパクトのスケールアップ調査」報告書は、このスケールアップの現状と課題を実証的に分析していて興味深いです。
調査では、まず、スケールアップ戦略として、以下の4つのカテゴリーを提示します。
1)キャパシティ・ビルディング
→組織の基盤強化
2)戦略的拡大
→新たな製品・サービス、顧客、活動範囲の拡大
3)契約パートナーシップ
→ネットワーク形成、ライセンス化、ソーシャル・フランチャイズ、ジョイント・ベンチャー
4)知識の普及
→模倣、ロビーイング、テクニカル・サポート
日本では、社会的企業のスケールアップ戦略というとまだ組織の基盤強化と戦略的拡大しか議論されていませんが、欧州の場合は、パートナーシップや知識の普及なども視野に入っている点が注目されます。特に、ソーシャル・フランチャイズやライセンス化などの手法は要注目ですね。
その上で、報告書は、それぞれのカテゴリーごとに、成功/失敗要因を分析し、さらに国境を越えたスケールアップの可能性を探っていきます。スケールアップを成功させる組織の要因は何か、逆にスケールアップを阻む内的/外的要因は何か等を、社会的企業へのヒアリングやアンケート調査を通じて検証しているため、説得力がありました。
日本でも、ソーシャル・ビジネスの拡大は政策課題の一つです。新たな法人格や社会的投資などの資金供給、インキュベーション支援なども重要ですが、このように将来のスケールアップも考えることも必要です。この調査のように、具体的な調査による検証を通じた制度設計の議論が求められます。
https://www.bertelsmann-stiftung.de/…/scaling-social-impac…/